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半導体不足を総括し、その後の世界をイメージしよう
津田建二 国際技術ジャーナリスト・News & Chips編集長
8/30(月) 0:55

 半導体不足が自動車産業からスマートフォンやパソコン、さらには産業機械にまで広がってきた。産業機械の一つ、半導体製造装置に使うマイコンなどの半導体に影響を及ぼし、半導体がないから半導体を作るための製造装置が作れない、という事態に発展しようとしている。

不足原因の一つはジャストインタイム

 そもそも半導体不足を起こしたきっかけは、車載用半導体を今すぐほしいという要求から始まった。この騒動は、昨年1~2月に顕在化した新型コロナにより世界各地でロックダウンが始まり、自動車工場が止まったことによる。ロックダウンで工場の社員は出られなくなり、世界各地の自動車工場が止まった。しかし工場を1週間止めると損失は大きい。例えばトヨタでは売上額が2019年度約30兆円だから、5日(1週間)/300日(実働)として荒っぽいが単純に計算すると、実に5000億円の機会損失になる。これを取り戻さなければ、機会損失から社員の雇用にまで影響が出てくる。そこで、自動車メーカーは、マスクや手洗い、三密回避などコロナ対策をした上で、工場を動かし始めた。

 停止する時は、半導体の入荷をすぐに止める。不足する時はすぐに納入する。いわゆるこのようなジャストインタイム方式が世界中の自動車メーカーに広まってきたことも車載半導体不足の一因だ。他の部品はともかく、半導体は1週間後にすぐ持って来いと言われても、すぐに作れるものではない。シリコンウェーハから半導体IC製品を製造するには約3カ月かかる。ウェーハからチップに切り出し、配線しプラスチックに封止、テストして良品を出荷するにはさらに1カ月かかる。つまり4ヵ月もかかるのだ。

図 300mmシリコンウェーハ 出典:Infineon Technologiesの本社で筆者撮影
 半導体ICを製造するにはまっさらのシリコンウェーハ(直径が300mm、厚さ0.8mm程度のシリコンの円盤)から半導体回路を形成するまでに、1000以上の工程を通る。例えば10~20階建ての高層ビルを建てていく工事に似ている。つまり、1階ずつ形成していくようなもの。1階作るための工程数は多いだろうが、半導体の場合は1階作ってもそのうちのいくつかの場所は削り落として、更地にする部分も出てくる。そう、凸凹のあるビルを作るような工程を経て、最上階はフラットにする。ざっとこのようなイメージで半導体ICを形成していくため、とても時間がかかる。

 にもかかわらず、自動車メーカーはこれまで生産をずっと絶やさず工場を運営してきたためにジャストインタイムでも半導体側は生産計画を立て、製品を納期に間に合うように生産してきた。しかし、コロナのようにラインを完全停止してから製品を要求しても、在庫がある分は提供できてもゼロから作り直しとなると、どうしても時間がかかるから半導体側は生産計画を見直して優先順位を付けなければならない。半導体ICはパソコンやスマートフォンの製造は欠かせない。電気製品だけではなくあらゆる社会問題を解決するために絶対必要なツールになっている。かつては産業のコメと言ったが今はシステムの頭脳に変わってしまっている。さらに最近ではデジタルトランスフォーメーション(DX)やスマートシティをはじめとするスマートXXXといった新しい需要が出てきている。

半導体需要は必ず新規が生まれる

 旺盛な半導体需要を満たすために優先度を見直してきた。スマートフォン向けだと手のひらサイズの中に30年前のスーパーコンピュータに匹敵する機能を詰めた半導体チップを作るために最先端の微細技術を使い高いコストかけながら生産している。もちろんその分高い価格で売る訳だが、車載半導体は低価格で高信頼性・高品質が要求される。つまり手間ヒマがかかり割に合わないのである。当然、優先度は下がる。しかし、半導体不足が表面化し自動車メーカーが政府まで動かし出荷を促すようになれば、それに従わざるを得なくなる。実際、半導体製造を請け負う専門業者(ファウンドリと呼ぶ)の台湾TSMCは、半導体不足が問題になり始めた2020年第4四半期の車載向けチップの販売額を前四半期比30%増、2021年第1四半期も同30%増、と増産し続け、2021年第2四半期になって12%増と少しピッチを緩めた。

 そうすると、スマホやパソコン、五輪需要でモニターやテレビなどのIC不足が表面化してきてきた。その他数量はスマホなどと比べるとそれほどでもないが、一般家電の洗濯機や炊飯器、冷蔵庫、ロボット掃除機、エアコンなど、賢くなり始めた家電向けの半導体も足りなくなる。もっとも足りないのは、クラウド需要で大量のコンピュータが必要なデータセンターである。クラウド需要は今回の新型コロナでも需要が大きく、企業向けのオンプレミス需要と相まってハイブリッドクラウド需要も高まってきている。

 余談だが、賢い家電に見られるように賢いことを英語ではスマートという言葉をよく使う。スマートXXXとはまさに賢くすることに他ならない。賢くするために絶対欠かせないのが半導体である。だから半導体は今やシステムの頭脳になった、と表現した。ところが、日本の電機のトップ経営者は「半導体は外から買って来ればいい」という態度にいまだに終始している。最近アマゾンンのクラウドサービス部門(ここがアマゾンの最大の稼ぎ頭)であるAWS(Amazon Web Service)が開発した独自チップGraviton 2の性能をさらに高めるGraviton 3の開発を計画している。加えて、AWSは、セキュリティICも開発しており、さらに独自チップをAI推論向けに開発しており、年内には学習用AIチップも発表する予定だ。

勝ち組は投資を抑制しない

 では、半導体不足はいつ解消するか。現在の需要のままなら22年後半あたりに解消し、23年には過剰になるという見方はある。しかし、その頃にスマート化やDXが進むと半導体需要は追加される。このため23年でも不足が続くという見方もある。24年には一段落するかもしれないが、スマート化とDXの進展で新たな需要が必ず増えてくるため、やはりいち早く増産し市場をとる方が勝ち組になるだろう。半導体市場は、一段落することはあっても必ずまた需要が旺盛になってくる。これがシリコンサイクルだ。半導体という頭脳はいくらあっても人間の頭脳に追いつけないからだ。

 先ほどのアマゾンの例で示したのは、独自チップで競争企業と差をつけるために半導体を独自に開発し、それを継続するという方向だ。独自チップは消費電力が少なく、しかも独自の機能を追加できる。ファブレス半導体のアマゾンやグーグル、アップル、フェイスブック、マイクロソフトなどのインターネットサービス企業だけではなく、エリクソンやノキアなどの通信機器メーカー、HPEのようなコンピュータメーカーまでも独自チップを開発しており、ファブレスで半導体を設計する企業は増えている。こういった新しいファブレス需要に応えるため、TSMCやUMC、グローバルファウンドリーズのファウンドリ企業なども新工場を続々計画している。日本だけが指をくわえている状況だが、これで良いのだろうか。