魔界の掲示板

魔界を訪ねて旧本能寺界隈を歩いたことがある。
祇園祭が終わって静かになった残暑の中、やたらと蝉が、コンクリートの間に生えた木々からやけに大きな鳴声を響かせていた。蝉の多さは尋常じゃない。鴨川に突き出した川床も夏の暑さを吸い切れず、虚しく川面を照らす。高瀬川沿いを歩くと昔、ここで坂本たちが命を削りながら、日本という国の行末を仲間らと酒を酌み交わし語り合っていた空気が漂ってくる。この川面をゆっくり小舟で下ると桂川に逃げられる。桂川沿いに竜馬が最期の時を迎えた隠れ家があり、今も異様なほどに血の臭いがする。
旧本能寺跡には、お寺やマンションが存在しここがあの天下の大事が行われた場所で有るなど知る由もない。わずかに石標柱がその名残をとどめているに過ぎない。けれどそこには確かにいる。沢山の見えないひとたちが。京都はまさに魔界である。