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    株は「金融緩和縮小の開始」で下落に転じるのか?
    「イマイチ」の日本株の先行きはどうなるのか

    6月4日にアメリカで発表された5月非農業部門雇用者数は前月差プラス55万9000人と市場予想をやや下回った。「ネガティブサプライズ」となった前月のプラス27万8000人からリバウンドしたものの、アメリカの雇用の伸びは緩やかだった。

    アメリカが好景気でも労働市場の回復が緩やかな理由
    アメリカではワクチン接種が広がった3月から経済活動制限が緩和され、現金給付の後押しもあり経済成長加速が始まった。2021年1~3月期のGDP(国内総生産)成長率は前期比年率プラス6.4%だったが、4~6月期はほぼ2桁の伸びに加速する高成長となっていると試算される。

    そして、アメリカの長期金利が上昇していた3月までは、経済の高成長とともに、労働市場も急ピッチに回復するとの期待が金融市場で強まっていた。コロナ克服とともに労働市場が顕著に回復すれば、FRB(米連邦準備制度理事会)が早期に金融緩和の見直しに着手する可能性が高まるためだ。

    実際には、前月雇用統計発表直後の5月13日のコラム「『米国株高はもう終了』と見るのはまだ早すぎる」でも指摘したが、新型コロナ克服によって経済が高成長となるなかで、労働市場の回復は緩やかにとどまるとの筆者の見立てどおりの展開となっている。

    冒頭で紹介した5月の雇用統計の数字を踏まえると、3月からの雇用者の伸びは平均でプラス50万人程度と緩やかに雇用が回復している。もちろん、労働市場が回復しているのは確かで、その意味ではポジティブに評価できるし、失業率は4月の6.1%から5月には5.8%まで改善している。

    ただ、月平均プラス50万人で今後雇用が増えると仮定すると、コロナ禍前までに雇用水準が戻るには2022年後半まで時間がかかることになる。多くのFRBメンバーは、それよりはもう少し早いペースでの雇用改善を期待しているのではないか?

    また、5月は失業率が低下するいっぽうで、労働市場から退出する人が増えたので労働参加率が再び低下した。緩やかな雇用増と含めて、今の労働市場に内在する制約によって、回復がスムーズに進んでいない兆候が散見される。つまり、経済活動再開とともに労働市場も回復に転じているが、緩やかにとどまっているとみられる。

    なお、筆者は、コロナ禍後の回復局面において広範囲にビジネスの淘汰が起きるなど、労働市場の需給のミスマッチ拡大が強まるので、労働需要が急速に伸びるのは難しいと見ている。このため、2022年半ばまでは拡張的な財政政策の後押しで、アメリカ経済の高成長が続くと予想しているが、労働市場の回復は緩やかにとどまると引き続き考えている。

    ところで、最近のFRBの要人発言を見てみると、テーパリング(金融緩和縮小)に関して5月の初旬までは「議論する段階ではない」といったコメントが目立っていた。ただ、タカ派のメンバーに加えて、5月末からFOMC(米連邦公開市場委員会)の中心メンバーであるリチャード・クラリダ副議長が、FOMCでのテーパリングの議論開始の必要性について言及した。

    これらの発言は、コロナリスク低下によって経済成長率が上向くなかで、今後の経済、インフレ動向次第だが、FRBがテーパリングの議論を年央のいずれかに開始することを意味する。4月のCPI(消費者物価指数)が大きく上振れたのは一部品目の価格上昇でほぼ説明できるが、一方でFRBが懸念していた「デフレリスク」が大きく後退したことを示す。デフレ回避のための強力な金融緩和をどの程度続けるべきかをテーマに、今後FOMCの議論が行われるとみられる。

    なぜテーパリング開始を急がないのか
    コロナ禍からの経済復調局面における、局所的とはいえインフレ率の大幅な上昇、財セクターにおける供給制約の強まり、原材料価格の上昇、などがそろって起きているのは、1990年代後半以降で初めての現象と言えるだろう。

    現在のインフレの動きが、今後の「持続的なインフレ加速」をもたらすとの見方が、FRBの中でも増え始めている可能性がある。FRBのオピニオンリーダーの1人と目される、ジェームズ・ブラード・セントルイス連銀総裁が6月1日に「労働市場が非常に逼迫している」と発言したことは注目に値する。

    ただ、現在のアメリカでのインフレ上昇は、コロナ後の財部門に特化した経済回復という「特殊な経済環境」故に起きていると筆者は考えている。このため、FRBの中で、インフレに対して警戒的な見方がこれから増える可能性はあるが、インフレ率の短期的な上振れを容認しながら、趨勢的な2%インフレの上昇経路への早期回帰を目指すFRBの基本方針は揺るがないだろう。

    以上をふまえると、コロナリスク低下と経済成長加速そして労働市場の回復継続を確認して、7~9月中にはテーパリング議論を開始するとみられる。そのうえで、量的緩和縮小を始める市場とのコミュニケーションを慎重に進めるだろう。FRBはテーパリング開始を急ぐ可能性は低く、時間をかけてテーパリングに着手するだろう。このため、テーパリング開始は、早くても2022年1~3月と筆者は現時点で予想している。

    ところで、4月からアメリカの長期金利上昇が止まり、そしてSell in May(5月に売り逃げろ)が過ぎても、アメリカ株市場が最高値圏を維持している。これは、FRBによる金融緩和が徹底されるという、筆者と同様の市場の期待が強いことが一因だろう。そして、FRBの金融政策への期待は、為替市場にも現れているとみられる。

    ドル円市場だけ見ていると、年初の1ドル=103円台から6月には109円前後まで「ドル高円安」となっており、アメリカの一人勝ちによってドル高が進んでいるように見える。ただ、対ユーロ、人民元ではドル安基調が続いており、6月にFRBが算出するドル指数は年初来安値を更新している。

    2021年のドル安を想定していた筆者にとって、ドル円が反転してここまで上昇しているのは正直想定外だった。ただ、ドル円以外で見ると、「アメリカの一人勝ち」の中にあってドル安が続いている現状は、ほぼ想定どおりの展開である。リスク資産の上昇が続き、FRBの金融緩和徹底への信認が、アメリカのインフレ期待上昇とドル安をもたらしていると筆者は解釈している。

    出遅れの日本株にも上振れ余地が出る政策とは
    これは、ECB(欧州中央銀行)の金融緩和が2022年早々に引き締めに転じるとの思惑、中国では不動産価格抑制が経済政策として重視されていることも大きい。ヨーロッパ・中国とアメリカとの金融経済政策の姿勢の差が、対ドルでのユーロ・人民元高をもたらしているだろう。

    一方、ドル円だけはドル高円安になっているが、まずは日本がコロナ禍からの回復に遅れており、2021年の経済成長率が下振れていることが影響している。さらに、より重要な円安要因として日本銀行の金融緩和政策が、FRBよりも強力に行われていることが円安を促している、と筆者は見ている。

    仮に、菅義偉政権の財政政策が、アメリカ同様に拡張方向に一段と踏み出せば、日銀の金融緩和が強まり、さらなるドル高円安も想定される。そうなれば、遅れている日本経済は急ピッチに回復するし、米欧に対して依然アンダーパフォーマンスしている日本株にも上振れ余地がでてくる。コロナ収束とともに秋口の総選挙を挟んで、菅政権の財政政策姿勢が変わるかどうかに筆者は引き続き注目している。