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ロイター通信によると、国際決済銀行(BIS)の幹部は11日、中米エルサルバドルがビットコインを法定通貨に採用する決定を下したことについて、「興味深い実験」だが、「以前から明らかにしているように、BISはビットコインが決済手段としての基準を満たしていないと考えている。ビットコインは投機的な資産であり、そのような資産として規制すべきだ」と述べた。

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    「国家ぐるみのギャンブル」ビットコインを法定通貨にしてはいけない納得の理由

    ■「前代未聞の選択」BTCがエルサルバドルの法定通貨に

     中米の小国エルサルバドルで6月9日、暗号資産であるビットコイン(BTC)を法定通貨にする決定が下された。このニュースを市場は好感し、同日の終値は3万7332.2ドルと前日から12%近くも急騰した。

     今後エルサルバドルでは、90日後の法制化を受けてビットコインの利用が開始される予定だ。とはいえビットコインが「唯一」の法定通貨になるわけではなく、従来の法定通貨である米ドルも引き続き利用することができる。

     エルサルバドルには独自通貨としてコロンが2001年まで利用されていたが、現在は流通しておらず、米ドルが法定通貨として利用されている。

     このように信用力が高い外国通貨を自国の法定通貨にする政策は「公式的なドル化」と呼ばれる。今回の決定で、エルサルバドルは「公式的な暗号資産化」という前代未聞の選択をしたことになる。

    ■投資マネーを呼び込むギャンブル的な決断

     ブケレ大統領はビットコインを法定通貨にした理由として、金融包摂(貧困層にまで金融サービスのアクセスを広げること)の推進を挙げている。

     エルサルバドルでは銀行でのサービスを受けることができる国民は、人口の3割程度とされている。銀行に口座を持たずとも金融サービスを享受できるビットコインのメリットを活用したいというわけだ。

     同時にブケレ大統領は、エルサルバドルでビットコインのマイニング(大量の電力を消費してコンピューターで行う計算作業)を振興する構想を示している。

     そして批判が多い大量の電力消費に伴う環境への負荷という問題を軽減するために、ブケレ大統領は国営電力会社に対して、再生可能エネルギーである地熱発電の利用を検討するように指示を下した。

     対米依存からの脱却という文脈から解説されることも少なくないこの決断だが、実業家出身のブケレ大統領が強い反米意識を抱いているとは考えにくい。その実、マイニングを容認することで、エルサルバドルにマネーを呼び寄せることがブケレ大統領の真の狙いではないだろうか。そうであるとしたら、大統領の決断は文字通りのギャンブルだ。

    ■自国通貨を放棄し、米ドルに「通貨の安定」を求めた過去

     このようにエルサルバドルはビットコインを米ドルと並ぶ法定通貨に定めたわけだが、それ以前にエルサルバドルが独自通貨コロンを放棄して米ドルを唯一の法定通貨と定めていた背景には、いったいどのような理由があったのだろうか。それはエルサルバドルが1980年から92年まで、深刻な内戦に陥っていたことが深く関係している。

     当時のエルサルバドルでは、ニカラグアでのサンディニスタ革命(1979年)に刺激された反政府運動が激しさを増し、米軍の支援を受けた政府軍とゲリラ勢力との間で武力衝突が生じていた。国連の仲介によって和平が実現した後、1994年に選挙が行われ、ようやくネイションビルディングが開始されることになったという経緯がある。

     この過程でエルサルバドルは、不安定な通貨であったコロンを放棄し、米ドルを法定通貨にしたわけだ。この選択によってエルサルバドルは金融政策の自律性を放棄したかたちとなったが、代わりに為替レートが消滅したことで物価と通貨が安定することになった。そうした安定を基に、エルサルバドルは経済運営に注力することができたわけだ。

     内戦終結から30年近くが経過したとはいえ1人当たり国内総生産(GDP)は4000ドルを超えた程度と、エルサルバドルはまだ中所得国にすぎない。中所得国にとって、物価と通貨の安定は経済発展の基本中の基本ともいえる。にもかかわらず、価格変動リスクが大きいビットコインを法定通貨にするという決断は、非合理であると言わざるを得ない。

    ■通貨になり得ないビットコインの致命的な欠陥

     内戦を経験した国やハイパーインフレを経験した国では、人々が資産防衛の手段として米ドルなど信用力が高い外貨を現金で所持していることが多い。米ドルを法定通貨にするという決断も、人々が貯蓄のみならず、日々の決済までも米ドルで行っている状況を追認したまでにすぎない。要するに、人々は通貨に対して信用力を求めるものだ。

     なぜ米ドルが高い信用力を持つのか、それは覇権国である米国で発行される通貨だからだ。暗号資産であるビットコインには、そうした裏打ちは一切ない。そうであるからこそ、ビットコインは投機マネーを引き寄せ、価格は乱高下を繰り返すのである。そうした性格を持つビットコインに、エルサルバドルの国民は信用を寄せるだろうか。

     内戦を経験した世代ほど、米ドル紙幣への信仰は根強い。古老ほどインターネットでの取引には抵抗感があるものだ。インターネットに対する抵抗感がない若い世代を中心にビットコインでの取引はある程度広がるかもしれないが、結局のところ価格の乱高下というビットコインが持つ投機性が嫌気される可能性は高いと考えられる。

     つまりビットコインの場合、価格上昇局面では資産効果が働くため、これが国内のインフレ圧力になり得る。反面で、価格下落局面では逆資産効果が生じるため、当然デフレ圧力が強まる。ビットコインの利用が一部の国民に限定されるようなら、さして問題にはならないだろうが、物価の安定という観点からはやはり警戒される動きである。

    ■犯罪性の強い経済取引に用いられるリスク

     より意識されるべきは、ビットコインが犯罪性の強い経済取引に使われるリスクだろう。隣国ホンジュラスやグアテマラとともに、エルサルバドルは中米の「北部三角地帯(northern triangle)」を形成、その治安の悪さや犯罪率の高さは折り紙付きだ。暴力組織も活発であり、麻薬取引など違法な経済活動が横行していることでも知られる。

     麻薬取引やマネーロンダリング(資金洗浄)などの闇取引にとって、匿名性が高い暗号資産での取引はうってつけの手段だ。米ドルでの取引であれば、送金業者や金融機関を必ず経由することになる。それがグレーな性格を伴う取引であれば、当局による捜査が入ることになる。しかしビットコインで送金を行えば、そうした横やりを回避することができる。

     技術的には、ブロックチェーン上での情報から取引の当事者をある程度は絞り込めるようだ。しかしその一方で、取引の追跡を困難にする技術も次々と開発されている。それに、そもそも暗号資産の魅力の一つである当事者の匿名性が失われれば、利用者は減ることになる。匿名性が担保されれば、自(おの)ずと犯罪色が強い取引が行われることになる。

    ■健全な経済発展に暗号資産は役立たない

     今回のエルサルバドルの「公式的なビットコイン化」について、暗号資産の推進派は一様に歓迎している。エルサルバドルの取り組みが暗号資産の今後の発展に大きく貢献することを期待する意見も多い。とはいえ、そうした人々の発言の多くは、エルサルバドルという国の事情を考慮に入れていない無責任な立場からの放言だ。

     エルサルバドルでの実験が、むしろ暗号資産の将来を閉ざす可能性にも留意すべきだろう。「公式的なビットコイン化」で違法な経済取引が蔓延し、国の経済発展がむしろ阻害された場合、暗号資産に対する国際的な規制はさらに強くなりかねない。少なくとも、エルサルバドル経済の健全な発展に、暗号資産が資することはなさそうだ。

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    土田 陽介(つちだ・ようすけ)