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日銀のETF買い入れ見直し 市場での存在感は薄れていくのか?

 日銀のETF(上場投資信託)買い入れ方針の見直しを受け、注目されていた4月の買い入れペース。そこから何が読み解けそうなのか。第一生命経済研究所・藤代宏一主任エコノミストの解説です。

年間「6兆円」の目標額取り下げる

 日銀は3月の金融政策決定会合でETFの買い入れ方針を見直しました。年間「6兆円」という具体的な金額を取り下げ、買い入れを実質的に減額しました。背景には、10年超におよぶ買い入れの結果として、株式市場における日銀の存在感が高まったことがありました。

 日銀はTOPIX(東証株価指数)が前場に一定の基準以上まで下落すると、その日の後場にETFの買い入れを実施し、これまでの累計額は約35兆円に膨れ上がっています。パニック的な株価下落に見舞われた2020年は約7兆円を買い入れました。日経平均株価が3万円の大台を回復して、さすがにこれ以上の買い入れは不要との意見が増えてきたこともあり、日銀は買い入れ目標の削除に踏み切りました。

 もっとも、日銀は「約12兆円の年間増加ペースの上限を、感染症収束後も継続することとし、必要に応じて、買入れを行う」として、具体的な金額は明示せずとも、買い入れそのものは続ける姿勢を示しています。これまでの政策変更では、金融政策決定会合の翌月から新たな買い入れ方針が適用されてきたので、4月以降のETF買い入れがどれほどのペースになるのかが注目されていました。

前場下落率が1%超でも買い入れず
 なお、1月までの買い入れ基準はTOPIXの前場下落率が0.5%超の時でした(※なお日銀は買い入れ基準を公表していません。本記事で言及している買い入れ基準は筆者を含む市場関係者が推測したものです)。1回当たりの買い入れ額は相場環境により500~1000億円と幅があったものの、年間買い入れ額は6兆円±2兆円程度になると試算されました。2月になると買い入れ基準は前場下落率1%に変更され、3月の金融政策決定会合の結果を待たずして実質的な減額が始まりました。その「1%基準」は3月も結果的に変わりませんでした。筆者は4月以降も「1%基準」が続くと考え、年間の買い入れ額が1~2兆円になると予想していました。

 ところが4月に入り、20日はTOPIXの前場下落率が1.25%と、1%を超えていたにもかかわらず、日銀はETF買い入れを見送りました。筆者を含む市場関係者の間で「買い入れを事実上ゼロにするのでは?」という憶測が広がりました。そうした不安もあり、翌21日はTOPIXの前場下落率が2.17%に達しました。すると、日銀は701億円の買い入れを実施。株式市場は一定の安堵感に包まれました(買い入れ実績は当日夕刻に公表される)。

先回り買いの呼び水効果は相当残る?
[グラフ]海外投資家・日銀売買動向

 現時点の情報から示唆される新たな買い入れ基準は、(1)前場下落率1%未満では買い入れを実施しない、(2)2%超の場合は買い入れを実施する、可能性としては(3)1.5%超の場合に500億円(もしくは700億円)程度の買い入れが実施される――といった具合です。この買い入れ基準が定着すると仮定した場合、過去の市場データから判断すると、年間買い入れ額は1兆円にも満たないと考えられます。

 株式市場への影響はどうでしょう。それを考える上で踏まえておきたいのは、過去数年にわたって日銀のETF買い入れが海外投資家の売りを吸収してきたという事実です。幸いなことに足もとでは海外投資家が買い越し傾向にあり、株式の需給は悪くありませんが、2018~19年に観察された年間5兆円規模の売り越しが今後起こった場合、日銀の存在感低下を痛感するかもしれません。

 もっとも、筆者が思うに日銀のETF買い入れの真価は、後場の切り返しを狙った先回り買いを誘発することにあります。“実弾”としての500億円(最近の1回当たり買い入れ額)もさることながら、呼び水としての役割が大きいように思えます。前場下落率がETF買い入れ基準に合致した際、後場に株価が切り返すことが多々ありました。

 だとすれば、今後データが積み重なり買い入れ基準が広く共有されれば、金額的なインパクトこそ従来対比で薄れるものの、呼び水としての効果は相当程度残存し、株式需給の引き締まりに貢献するのではないでしょうか。またETFを売却しない限り、日銀が大株主として君臨する銘柄群の株式需給は構造的に引き締まった状態(≒市場で売りに出される株式数が少ない状態)が維持されると考えられます。日銀が保有株式を手放さない以上、ETF買い入れの効果は残存し、今後も株式市場に貢献する可能性が高いと考えられます。