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呼吸困難の掲示板

>>298

■ 「マエストロ」と言われたグリーンスパン

 このパターンを確立したのが、1987年から2006年まで19年間にわたり米国の金融政策のトップであったFRBのアラン・グリースパン議長である。

 金融だけでなく経済と株式市場の長期成長までもたらしたグリースパン議長は、その絶頂期には「マエストロ」と呼ばれた。

 グリースパン議長は、低金利政策により株式や不動産などの資産価値を高めて富裕層の消費を拡大して経済成長を持続させ(その間に貧富の格差は拡大したが)、マーケットが加熱すると金利を引き上げ続けた。

 一旦マーケットが暴落すると瞬時に大幅に金利を引き下げて債券価格を上昇させて暴落を緩和し、超低金利効果による経済と株式市場の回復を導いた。

 2000年のITバブルの崩壊から回復と成長をもたらし、2006年の退任の直前までは過熱する株式市場を抑制するために金利を引き上げ続けた。

 グリースパンの後継者であるベン・バーナンキFRB議長もグリースパン路線を踏襲して金利を引き上げ続け、リーマンショックの暴落が発生すると直ちに金利を低下させて危機を乗り切り、その後の株式と経済の成長に道をつけた。

■ FRBは株式市場に責任を持つ

 ではなぜ、米国の中央銀行であるFRBは株式市場を動かすのだろうか。

 FRBが雇用の最大化、つまり経済に責任を持っているからだ。そして、株式市場が株式上昇→消費→雇用→経済、という経路で米国経済に及ぼす影響が大きいからだ。

 米国は資本主義の総本山であり、米国資本主義の最大の装置が株式市場であることは過去100年間変わらない。1929年の米国発の大恐慌は株式市場の突然の暴落から始まった。

 FRBを含めた米政府にとって、株式市場をコントロールすることは、経済に直結する死活問題である。

 1990年代以降の米国の財務長官に、私も共同経営者(パートナー)であったゴールドマンサックスから3人も就任していることも、マーケット重視の表れだ。

■ 日銀には制度上、株式市場に責任がない

 ここで注意しなくてはいけないのは、日本の中央銀行である日本銀行が法律で定められた責任を持っているのは「物価の安定」だけだ。

 日銀は雇用にも経済にも株式市場にも、制度としては責任がない。

 日銀が1980年代の株式や不動産のバブルを放置したことも、1990年代以降のバブルの崩壊にも手をこまぬいたことにも、こうした制度上の日米の違いが作用した。

 ただし、日銀史上最も国際金融論に通暁した現在の黒田総裁が、2013年の就任以来、日銀の伝統的な手法ではなく、FRBによく似た「金融による成長戦略」をとり、ここまで株式市場を上昇させ、少子高齢化が進む日本経済のマイナス成長を緩和してきたことは特筆すべきだ。

 もちろん、世界最大の対外純資産を持つ点では米国と対極的だが、日本の黒田日銀の政策にも、FRBと共通するリスクが内包されている。

■ コロナが変えたパターン

 ドナルド・トランプ政権が誕生した2016年から2019年にはFRBはFF金利をゼロから3.5%まで引き上げていた。

 株式市場の上昇が続き、経済は好調で物価上昇の兆候が見られたためだった。

 しかし、2020年から始まったコロナ禍により、FRBはFF金利をゼロにまで引き下げた。ここから、米株式市場、特にGAMFAを擁するナスダック(NASDAQ)市場の暴騰が始まった。

 「FF金利の大幅低下は買い」という過去の経験則から個人投資家を含む世界中の投資家が米株式市場に資金を流入させたからだ。

■ 共同幻想が消えるとき

 大いなる錯覚である。

 過去のFRBによる大幅な金利低下は、株式市場の暴落に対応するためだった。しかし、今回の大幅な金利低下の前には株式市場の暴落は起きていない。

 それどころか、米株式市場は歴史的な高値水準にまで上昇した。

 この本質的な違いを無視して、「ゼロ金利は買い」という過去の成功の方程式を信じた資金が米国株を押し上げた。

 株式市場がどの程度「バブル」状態なのかを表す指標にPER(株価収益率)という「倍数」がある。株価が年間の純利益の何倍なのかを表す。

 日本経済がバブルと言われた1989年末で、PERは時期にもよるが、およそ50倍程度であった。

 直近の2021年1月末のナスダックの平均PERは約71倍、つまり年間利益の71年分、株が買われているということだ。

 グラフ(2)を見ても、ナスダックがこの1年間でいかに上昇したかが分かる。

 この大いなる錯覚が米国株急上昇の最大の原因である。「共同幻想」が消えた時には、暴落の危険をはらんでいる。

■ コロナはきっかけに過ぎない

 パンドラの箱を開けたらあらゆる災いが人類にもたらされたとギリシア神話ではいう。

 トランプ大統領が開けたパンドラの箱に、コロナという突風が吹き込んで、これからの米国と世界には「21世紀型大恐慌」のリスクが高まっている。

 そして、2020年からのコロナをきっかけとして、再びFRBが経済とマーケットのコントロールできない時代に入ろうとしている。