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memo帳の掲示板

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  • 2020/11/21 09:45
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掲示板のコメントはすべて投稿者の個人的な判断を表すものであり、
当社が投資の勧誘を目的としているものではありません。

  • 「米史上最高値と日経平均29年ぶり」の意味

    11月16日、ニューヨークダウは終値で2万9950ドルと3万ドルにあと50ドルまで迫り、史上最高値を更新した。

    日経平均株価も17日には2万6000円台に乗せて引けた。こちらは、29年ぶりだという。2万5000円の際にも29年ぶりと報じられたが、こんなに長い間、この下の株価でビジネスをしていたのかと思うと、証券マンとしては涙が出る思いになる。「史上最高値更新」と「29年ぶり」の彼我のギャップに愕然とせざるを得ない。

    しかし、感傷は脇に置くとして、株価が上昇していることは間違いない。
    株高にアメリカの大統領選挙は関係なさそうだ。ドナルド・トランプ大統領優勢の報道の日も、ジョー・バイデン候補勝勢の報道の際にも、株価は上がった。「節操がない」とも言えるが、株価は別の要因で「上がりたかった」のだろう。

    本欄の前回「『株のバブル崩壊が近い』と言える4つの理由」の執筆者であるオバゼキ先生(小幡績・慶応義塾大学大学院准教授)は、今の株価を「バブルだ」と喝破された。筆者もこの株価上昇の構造が「バブル的」であることに同意する。しかし、他方でこれが真性のバブルなのだとすると、「バブルは、この程度で収まるような生やさしいものではない」とも思う。本稿では、その辺りの事情を説明したい。

    なお、株価上昇の一因として、大統領選挙終了による不確実性の解消を語る向きもあるが、これは違っていそうに思う。バイデン氏の僅差の当選と上下両院での民主党の意外な不振で、同氏の政権基盤は極めて弱そうだ。彼は共和党のほかに党内左派の不満にも対処しなければならない。

    今のところ顕在化していないが、民主党左派の不満と、「トランプ的な共和党の支持者」の間には、意外に共通の利害があるように思われる。端的に言って「反エリート」だ。目下、「左右」の対立が「上下」の対立を覆い隠しているが、「バイデン次期政権」は民主党左派に造反されると思ったように政策が実行できない弱みを抱えている。

    それでは、株価が上昇した理由は何か?

    それは、コロナの感染拡大が続いているからだ。

    「3つの波」の違いとは?

    コロナの感染は世界的に拡大している。アメリカでは新規感染者数の記録更新が続いており、感染者累計、死者ともに、圧倒的な世界一だ。同国では、感染「第1波」が収まらずに拡大している。

    欧州では感染が再び拡大しており、英国のようにロックダウン(都市封鎖)に至っている国もある。これは、「第2波」だろう。一方、わが国は、欧米ほど深刻ではないとしても、おそらくは、寒気と「Go To」キャンペーンなどに伴う経済活動活発化の影響で、「第3波」と呼べるような状況でコロナの感染が拡大している。

    わが国を含む多くの国の7~9月期のGDP成長率は「好調」だが、4~6月期の深い落ち込みを回復するほどではない。そこにコロナ感染の拡大を迎えており、実体経済の現状と先行きは決して良好には見えない。「株価と実体経済の乖離」を心配する向きも少なくない。「これで株価は大丈夫なのか?」と言いたくなるところだが、これで大丈夫だし、むしろこのほうが大丈夫なのだ。

    要するに、現在の株価上昇の原動力は金融緩和だ。金融政策が目一杯緩和されて、さらにこれを財政政策が後押しして緩和の効果を拡大している。この状況をもたらしているのは、コロナによる経済の不調であり、例えば政権として許容できない失業率だ。

    順番に説明すると以下の通りだ。

    まず、3月、4月のコロナの感染状況と経済の急激なストップを受けて、リーマンショック時の教訓を持っている世界の政府と中央銀行は最大限の金融緩和と未曾有の財政拡大に踏み切った。これらは、コロナ最悪期に対応した政策だ。

    しかし、各国いずれも経済を止めておくわけにはいかない。経済活動は徐々に再開された。わが国も、コロナ感染の第3波を迎えて、政府が「Go To」の見直しを渋っている様子を見ると、緊急事態宣言時のように経済活動をストップするつもりはなさそうだ。

    政治的信条を表すキャッチフレーズ「自助、共助、公助、そして絆」のトップに「自助」が来る菅政権の下にあっては、国民は、感染のリスクはあっても、自己責任の下で経済的な「自助」の努力を行うことが行動の基本方針とならざるをえない。つまり、以前よりも経済は回る。

    さて、金融・財政政策はコロナの恐怖イメージが最悪期だった状況のままで、経済活動が部分的にでも復活すると何が起こるか。こと株価に関しては上昇が自然である。ここまでの株価上昇の多くの部分を、政策と経済実態のギャップで説明できるだろう。

    こうした構造を踏まえると、ワクチンの開発などでコロナを抑えることができると、経済活動の見通しが良くなるので、株価はさらに上がるのが当面自然な反応だ。

    それでは、コロナの問題がおおむね片付いたと認識されると、次には何が起こるだろうか?実は、株価にとっていちばん恐ろしいのは金融の引き締めだ。今の超金融緩和状況が逆転するという見通しが発生したとき、現在形成中のバブルは終了、すなわち「崩壊」を迎える公算が大きい。この点を考えると、現在のコロナの感染拡大は、間接的には株価にとって好材料なのだ。うれしいストーリーではないが、理屈はこうなる。

    バブルの基本構造とは?

    バブルとは、過剰な信用(=借金)の拡大が投資に回ることによって発生するものだ。現在、信用の拡大は中央銀行による金融緩和と、これを資金需要面でさらに後押しする財政支出で、各国の「国家レベル」で行われている。もちろん、金融業をはじめとする民間のビジネスは、こうした金融緩和をとことん利用する方向に進むはずだ。

    この構造を前提とすると、コロナの感染が拡がり、死者と失業が増えるような状況になると、さらに財政的な後押しが追加されるし、金融緩和がより長引くと予想されることになる。つまり、コロナは株価の支援材料なのだ。

    「バブル」はこうしたメカニズムで生じる金融的な現象だ。典型的なバブル崩壊は金融の引き締めを背景として起こる。つまり、コロナ問題が解決して、金融環境の方向性が変わる時に「パーティー」が終了し、その後に二日酔いのような不良債権問題が残るのが普通の展開なのだ。

    もちろんワクチンでコロナの悪影響が軽減される時に株価はこれを好感するだろうし、感染が拡大してロックダウンなどの影響が拡がると下落に転じるような、短期的な反応は普通にあるだろう。また、株価上昇のスピード調整や単なる投機による株価の乱高下もあるにちがいない。しかし、おおもとの構造として、コロナが居座り、現在の経済政策を正当化し続けることがバブルを支えている。

    アメリカ国民の対立をあおりたいわけではないのだが、同国で起こっていることは、無保険だったり、貧困だったりして、コロナに罹りやすく、死亡率や失業率が相対的に高い貧困層の苦難が、経済対策の正当化を通じて、多額の株式やストックオプションを持っているエリート層の経済的コロナ太りを支えている。

    「左右」よりも、「上下」の対立こそが本来より深刻で本質的なのではないか。バイデン氏がエリート層に気に入られるような政策に傾きすぎると、アメリカの市民もこの構造に気づくだろう。

     日本の社会には、アメリカよりも、もう少しマシなところにとどまってほしい。公平で効率的な再分配政策が重要だ。

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