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日銀の掲示板

2022-01-28 23:48
見通し
日本のサービス価格は適温上昇、需給ギャップ修復余地、株高・円安余地も

日本の需給ギャップと相関性のある日銀の企業向けサービス価格指数(消費税を除く)は、最新の昨年12月に前年比+1.1%となった。先行き資源高や供給・人手制約などによる悪い物価上昇は警戒されるものの、現状は3カ月連続で+1.1%と「適温」上昇になっている。
漸進的な価格転嫁の進捗と雇用・賃金の底上げ波及、デフレ比で悪くない物価上昇と需給ギャップの修復余地が注目される。現状はマイナス圏の需給ギャップだが、過去はプラス回復の前後まで中長期スパンでの株高・円安基調が維持延命されてきた。

日本ではコロナ感染が再増加となっているが、政治的には7月の参院選に向け、政権・与党としては感染封じの一方で、景気配慮と経済立て直し、家計の所得環境改善を一段と強化させる可能性が焦点になっている。

所得環境の改善に関しては、20−25日の衆院予算員会に岸田首相と日銀の黒田東彦総裁が相次いで出席し、岸田首相は「価格転嫁ができず、賃上げができない悪循環を脱しないといけない」、「価格転嫁などにより、賃金引き上げを一刻も早く実現する」と改めて決意を表明した。黒田総裁も「経済が拡大して、物価と賃金が同時上昇する好循環が重要」と足並みを揃えている。

また、悪い物価上昇と日銀の緩和弊害論については、岸田首相が「まずはデフレからの脱却が大事で、しっかりと成し遂げる」、「日銀には2%物価目標に向けて努力することを期待」、「物価が上昇するからこそ、賃上げに取り組む」という見解を示した。

呼応する形で黒田総裁は、「金融緩和を続け、景気・企業収益の回復を通じて賃金上昇を目指す」と説明している。黒田氏は日銀の緩和長期化などによる円安についても、賃上げに不可欠な企業収益の回復などの点で、「若干の円安は日本経済にプラス」と主張した。

その中で企業による価格転嫁動向や、良い物価上昇を左右する需給ギャップに関係する日銀の企業向けサービス価格指数(消費税を除く)は、昨年12月に前年比+1.1%となった。先行き資源高の間接影響や供給・輸送・人手制約などによる悪い物価上昇は警戒されるものの、現状は3カ月連続で+1.1%という「適温」上昇となっている。

企業向けサービス価格については、過去に日銀の調査統計局が「他の物価指数と比べて需給ギャップとの相関が高く、景気循環に敏感に動く傾向が強い。背景としては、企業が景気循環の動きにあわせてサービス需要を弾力的に調整していることがあげられる」といった分析レポートを取りまとめている。その意味でサービス価格のプラス化定着は、先行き需給ギャップの修復余地が注目されやすい。

日銀の試算による国内需給ギャップは、昨年7−9月が−1.54%となっていた。2018年10−12月の+2.12%を直近最高として、2020年4−6月以降は6四半期連続でのマイナス低迷となっている。

一方で過去実績として需給ギャップがマイナス悪化となったあと、底入れからプラス回復となる前後にかけては、脱デフレ期待などもあって株高・円安のトレンドが維持延命されてきた。

すでに需給ギャップと相関性の高いサービス価格指数の前年比は、48カ月(4年)移動平均の上抜けと方向角度の上向き転換という上昇基調が明確化されてきた。過去にはデフレ・円高圧力の後退などを通じ、ドル/円は高確率でドル高・円安トレンドが同時継続している。
今回の場合、需要の回復よりも、供給抑制によるギャップ改善が先行する可能性があり、力強さには欠ける。それでも需給ギャップ改善と悪いデフレ・円高圧力の減退、適度な物価上昇による実質金利の押し下げ効果、経済対策効果、段階的なコロナ共存経済の浸透もあり、1月以降の株安・円高といった短期調整を経ながらも、中長期トレンドとして株高・円安基調の持続性が注目されやすい。

最近では需給ギャップが2014−2016年のマイナス転落を経て、2016年10−12月からプラス回復となった。当時の日経平均株価は、その前段階となる2016年6月で底入れに移行。需給ギャップのプラス化を挟み、月間の高値比較では2016年6月後から2018年10月にかけて、27カ月間、+7140円幅の株高トレンドが形成された。

ドル/円も2016年6月の98円前後で、ドルが底入れとなっている。ギャップ改善と同時進行の形で、2016年12月から2018年1月にかけては14カ月間、1ドル=107円から114円前後でのドルの底堅さや安定化が長期持続した。
最新12月サービス価格の業種別では、外航貨物輸送が+38.6%、国際航空貨物輸送が+25.9%、国際航空旅客輸送が+8.8%と急上昇するなど、悪い物価上昇も見られた。ただし、こうした供給サイドによる価格引き上げは、海運株の底堅さのように株式市場では個別のプラス材料となる側面も無視できない。

日本株は1月から大幅安となっているが、東証業種別株価指数のテクニカルでは過熱感を示すRSI指数(相対力指数)の週足ベースで、内需・サービス関連で「下落の行き過ぎ過熱」を示唆する急低下が見られている。具体的には、不動産業、小売業、陸運業、情報・通信業、サービス業などだ。先行き売られ過ぎ修正の反発余地が注目されやすい。

内需・サービス関連では、根強いコロナ影響による供給制約や需要打撃が続く逆風下にあって、「デフレとの相対比較」で悪くない物価上昇も散見されている。具体的には金融・保険の+1.2%、不動産の+1.1%、運輸・郵便総計の+2.5%、こん包の+2.1%、土木建築サービスの+3.0%、建物サービスの+1.2%などだ。

こうした適度な物価上昇はプラス面、マイナス面の差し引きで、悪い値下げ競争とデフレの阻止、関連企業の収益下支え、値上げ企業による雇用・賃金の底上げ還元といった一定のプラス効果が期待できる。

岸田首相と黒田総裁が揃って目指す「企業の価格転嫁を伴う物価上昇」、「企業の収益改善を受けた賃上げ波及」、「物価と賃金の同時上昇」との関連では、12月のサービス価格で労働者派遣サービスが+0.7%となった。本格的な正社員の賃上げ波及には遠いとはいえ、コロナ打撃を受けた昨年6月の−0.6%をボトムに修復傾向にある。

過去のサービス価格と日本株との相関関係では、内需とデフレ状況に直結する労働者派遣サービスのほか、不動産や運輸・郵便などが前年比プラス化を維持している限り、本格的な株安トレンドへの転換は回避されてきた。12月時点では各価格ともに、2020年以降のコロナ打撃による急落と反動上昇、リバウンド一服による反落を経て、再び持ち直し傾向にある。