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私と経済の掲示板

<低金利の前提がもろく崩れる可能性>

短期金利は日銀の金融調整によりコントロールされるが、長期金利は金融政策の影響があるものの、基本的には長期資金の需給により決定される。換言すれば、「期待潜在成長率」「期待インフレ率」および「予想リスクプレミアム」を構成要因とし、市場参加者による「期待」「予想」に基づく点において、価格は市場参加者の心理を反映する。つまり、皆がインフレは来ない、成長はあり得ない、リスクプレミアムはないと考えていればこそ、現在の低金利が実現されているのであり、一人、二人と市場参加者が予想を変えていくに従いその前提は崩れ、結論は大きく異なるものとなる。

「期待潜在成長率」は人口減少期に入った日本において、よほど画期的な技術革新がない限り劇的に上昇する可能性は乏しい。一方、「期待インフレ率」は、日銀が1%の物価上昇を目標にデフレ対策を打ち続けるものの、当面高まりそうにはない。

「予想リスクプレミアム」については、特に財政的リスクが看過できない危険水域にある。記憶に新しいところでは、11年にスタンダード・アンド・プアーズ(S&P)が、財政悪化懸念を理由に、日本国債の格付けを最上位から3番目の「AA」から「AA−」へ1段階引き下げた。そのときは、市場がその警鐘に全く反応しないために金利は上昇しなかったが、投資家がいつ何時、何をきっかけに日本国債に対するリスク感応度を高めるかは限りなく不確実だと言えよう。

これまで国債が国内の資金で安定消化されてきた、つまり家計純金融資産が政府債務を安定的に上回ってきたのは経常収支黒字の故である。11年末における日本の対外純資産は253兆円(対外資産582兆円、対外負債329兆円)に上り、所得収支に貿易収支の黒字も加わり年間10―25兆円の経常収支黒字を確保してきた。国内貯蓄超過を表す経常収支黒字こそが財政赤字にもかかわらず財政リスクプレミアムを顕在化させない背景となってきた。

しかし、経常収支の悪化傾向はここにきて顕著となり、さらには国内貯蓄率低下も加わり、国内貯蓄に大きく依存してきた国債市場が不安定化するリスクが高まっている。12年度上半期(4−9月期)の経常収支黒字は2兆7214億円へと縮小し、9月単月の季節調整値は31年半ぶりに赤字に転落した。経常収支の赤字基調が決定的な流れとなれば、その結果として国債金利上昇が現実化する恐れが増幅する。

将来を見通せば、数年内に政府債務残高のGDP比率は250%に達する。国債引き受けの海外投資家への依存が恒常的となり、ついには対外純資産も激減してゆく最悪シナリオも視野に入る。国内外の投資家が日本の財政リスクプレミアムへの感応度を高め、金利が上昇トレンドに入る前に、政府は何としても市場を納得させる財政改革プログラムを打ち出さなければならない。10年前のアルゼンチンがたどった国家破綻の道を避けるために残された時間はあまりに少ない。