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ドル円メモ帳の掲示板

今年後半のドル円相場はどうなる?重要なのは9月以降の米雇用統計

7月2日に米6月雇用統計が発表されました。まずは、その内容を確認していきましょう。

サービス業で雇用者増がつづく
事業所調査ベースの非農業部門雇用者数(以下 NFP)が前月比85万人増と、事前予想中心値の72万人増に比べてかなり強い内容となりました。前月・前々月分は併せて1.5万人上方修正されました。2月分以降のレジャー部門を中心としたサービス業の堅調な雇用者増が引き続き全体の雇用増をけん引しています。

家計調査ベースの労働力調査では、6月雇用者は前月比1.8万人減と、NFPとは全く異なる結果となりました。以前もこの連載で触れましたが、1人が複数の事業所で非正規雇用(パート・アルバイト)された可能性が高いのではないかと筆者は考えています。例えば、月火はコストコでレジ、水木はウォルマートで清掃、週末はどっかのビルの夜警、といった感じです。また、既に就業している人が、他社でも雇用されたのかもしれません。

家計調査ベースの失業率は、市場予想の5.6%に対して5.9%と悪い内容で、5月の5.8%からも悪化しています。失業率が悪化(上昇)した理由としては、自主的に離職する人や職探しをする人が増えたことが挙げられます。

筆者の今回のNFP予想は、米雇用統計調査週(12日を含む週)の米失業保険継続受給者数の差(受給者が19.8万人減少)から予想したため前月比25万人~30万人増と市場予想中心値よりもかなり弱く、大きくはずれました。

事業所調査ベースの平均時給は、市場予想と一致しましたが、5月からはかなり強い内容となっています。相場のファーストリアクションは市場予想比で動く傾向が強いので、今回の相場の動きには影響しなかったと思われます。

ただし、米国の今後の物価動向を注視していく上で、今後賃金の上昇率が鈍化していくのか、高水準のままなのかは注視していく必要があるでしょう。ただ、前年が大荒れなので、落ち着くには時間がかかりそうな指標ではあります。

今回も市場の期待が前のめり過ぎただけ?
米6月雇用統計発表後の市場は乱高下しました。ファーストリアクションは強いNFPを受けてドル買い、米国債利回り上昇となりました。しかし、すぐにドル売りも出て、米国債利回りも低下しました。失業率が予想比かなり悪かったことで、ポジションを一方に傾けることに慎重になったのかもしれません。

また、短期の投機筋やA.I.が強い米雇用統計を予想して、ドル買いポジション、米国債売りポジション(金利上昇ポジション)で米6月雇用統計を迎えて、ポジションをアンワインドする動きになったのかもしれません。

毎月の繰り返しになりますが、米6月NFPに対して市場期待が強まった背景は、6月30日に発表された米ADP雇用統計(民間雇用)が、市場予想の前月比60万人増に対して同69.2万人増であったことと思われます。過去を見ると、ADP雇用統計とNFPが乖離する場合も多く、筆者はNFP予想にADPはほとんど使用していませんが、米FRB当局者が米雇用回復に対して自信を示していることで、気持ちと短期筋ポジションは前のめりになりやすかったものと思われます。

米雇用回復を妨げている要因
ワクチン接種が進んでいる米国において、雇用回復ペースが鈍い要因を米FRB当局者たちはいくつか挙げています。

(1)米失業保険給付の追加支給延長(9月6日まで)によるもの。
安い賃金(時給)で雇用につくよりも、失業保険を受給してる方が高い収入になるので、敢えて就業しない人がいる、というものです。ただこれに関しては、米共和党出身知事の州(赤の州)を中心に、既に米19州で失業手当ての給付金が削減されている。

(2)学校が完全再開(面談授業)していないために、子供を持つ(主に母)親が就業できない。

(3)一部の州で接種が進んでいない(何らかの理由で接種を拒む米国人が多い)
比較的米共和党支持者が優勢と言われる州(赤の州)での接種率が伸び悩んでいるようです。
NYタイムズ紙によると、7/2現在、米国民で1回目のワクチン接種が終わった人の割合は54.7%で、18歳以上では66.8%になります。18歳以上の接種率が最も高い州はバーモント州の85.3%。人口が多い州では、ペンシルベニア州75.6%、カリフォルニア州74.8%、ワシントンD.C.72.7%、NY州72.4%となっています。一方で、18歳以上の接種率が低い州は、ミシシッピ州46.3%、ルイジアナ州49.0%、ワイオミング州49.6%、アラバマ州50.2%テネシー州52.0%ウェストバージニア州52.4%・・・、と赤の州が占めています。

上記のうち、(3)に関しては、日本人の筆者には何とも言えませんが、来年の米中間選挙に影響が出て来るかもしれません。(1)と(2)に関しては、9~10月の米雇用回復ペースアップにつながる可能性が高いと思われます(米国の新学期は10月から)。米FRB当局者の発言を見ていても、9~10月ぐらいからの米雇用回復を期待している向きが多いようです。

逆に言えば、米FRB当局者は現状の労働市場のひっ迫は解消されると予想しており、6月、7月、8月の米雇用統計で一喜一憂する必要はないでしょう。短期投機筋は別ですが…

この先のドル円相場、予想レンジは?
さて、昨年末から円安相場を予想してきた筆者ですが、今回の米6月雇用統計の反応もあまり重要視していません。当面の超過剰流動性下における平和ボケに近い楽観トレードは、8月までは続くものと思われます。

筆者は9月の米FOMCで米テーパリング「議論開始」と予想していましたが、筆者予想に反して6月の米FOMCで議論が始まりました。パウエルFRB議長は「今回は『議論することについて議論する』会合だった」と、日本の政治家みたいな遠回しな言い方をしていますが、出来るだけ市場にショックを与えないようにしているのでしょう。

当面は、米FRB当局者のハト派とタカ派と中立派をうまく交互にしゃべらせて、市場のポジションの傾きを静かに調整させ、2013年5月の「バーナンキ・ショック」のような相場の急変を回避する方策を取ってくるものと思われます。

年末のドル円は需給の円安で111~112円方向と筆者は予想していまが、7~8月期はポジション調整的な動きもあって、107.50~111.50をコアとしたレンジになるのではないでしょうか?

今泉光雄(大和証券 チーフ為替ストラテジスト)