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  • 2022-01-28 22:48
    ニュース
    中国人民元、12月の決済シェア4位、6年4カ月ぶり円抜く=日経

    日本経済新聞によると、世界の投資や貿易に伴う資金決済の通貨として、中国の人民元が2021年12月、日本円を抜いて世界4位になった。元の切り下げで取引が急増した15年8月以来、6年4カ月ぶりだ。人民元高の傾向が続くなか、海外から元建て債券への投資が伸びていることなどが背景にある。

    銀行間の国際的な決済ネットワークである「国際銀行間通信協会」(SWIFT)の調べで明らかになった。12月の通貨別決済シェアで人民元は2.70%。2.58%だった日本円を逆転した。ドル(40.51%)、ユーロ(36.65%)、英ポンド(5.89%)に次ぐ。

    人民元は長らく5〜6位で推移してきた。新型コロナウイルスの感染が広がる前の19年12月(1.94%)と比べると、シェアは0.8ポイントほど高まった。21年12月の比率は15年8月以来の大きさとなった。

    投資と貿易の両面で人民元の需要が高まっている。
    内外の金利差や中国政府の金融開放をうけ、海外投資家が元建て債券の投資を増やしてきた。香港経由で中国の債券を売買できる「債券通(ボンドコネクト)」などを利用した外国人の元建て債券は21年末時点で、4兆元(約72兆円)を超え、1年で23%増えた。
    英指数算出会社のFTSEラッセルが21年10月末、代表的な国債指数に中国国債を段階的に組み入れ始めたことも中国への資金流入を促す一因になっている。

  • 北朝鮮狙ったサイバー攻撃か 主要サイトが2日連続接続障害
    1/27(木) 8:40配信
    聯合ニュース

    北朝鮮の主なウェブサイトへの接続が難しくなっている(イラスト)=(聯合ニュース)

    【ソウル聯合ニュース】朝鮮労働党機関紙の労働新聞や朝鮮中央通信など北朝鮮の主なウェブサイトへの接続が前日に続き、27日も難しくなっている。北朝鮮を狙ったサイバー攻撃かどうか注目される。

     海外メディアは26日、北朝鮮へのDDoS(分散型サービス妨害)とみられる攻撃が発生したと報じた。報道によると、26日午前から約6時間、DDoS攻撃が行われ、電子メールを扱うサーバーは復旧したが、ウェブサイトへの接続障害は回復していないという。

     一方、韓国の情報当局は北朝鮮が偵察総局などにハッキング組織を設置し、ハッキング活動を行っていると分析している。ハッキングの対象は世界各国の政府や企業、暗号資産(仮想通貨)取引所、北朝鮮専門家などとなっているという。

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  • >>155

    「ミサイル攻撃後」の対応に注力を
     抑止とは、本質的に逆説的な概念だ。抑止の「失敗」を避けるためには、もしも抑止が失敗した場合に、可能な限り損害を限定して、戦争を有利な形で終結させるための一連の戦い方=「セオリー・オブ・ビクトリー」をあらかじめ考えておかなければならない。「平和を欲するなら、戦争に備えよ」という古代ローマの格言は、その本質を端的に表している。

     前述のように、凄まじい勢いで増強される中国のミサイル脅威に対し、既存のミサイル防衛態勢による対処が困難なのは明らかだ。緒戦のミサイル攻撃によって、日本の航空基地の大半が無力化されてしまえば、基地機能を復旧させるまでの間、航空自衛隊や米軍の戦闘機の多くは飛び立つことすらできなくなってしまう。

     よって、日本に必要な長距離打撃能力を、F-35やF-15などの航空機をベースとした空中発射型のスタンドオフ防衛能力(長距離巡航ミサイル)の延長線上で考えるのは適切ではない。

     中国の戦略計算を変えうる「ゲーム・チェンジャー」となるのは、精密誘導が可能な中距離弾道ミサイルと極超音速滑空ミサイルだ。既に中国側が圧倒的な優位を持つ緒戦のミサイル攻撃を防ぐのではなく、滑走路、格納庫・掩体壕、弾薬庫、燃料貯蔵庫、レーダー施設、通信施設、指揮統制システムなどの固定目標を弾道ミサイルによって瞬時に「狙撃」する態勢をとり、ミサイル攻撃に続く爆撃機の発進や、戦闘機による航空優勢の確保を阻止することに注力するのである。

     中国の台湾侵攻作戦は、宇宙・サイバー・電磁波攻撃による情報システム、早期警戒・ミサイル防空態勢の弱体化→ミサイル攻撃による防空態勢の物理的な破壊→海上・航空優勢の確保・機雷敷設などによる封鎖網の確立→着上陸作戦の実施、というように逐次的に設計されており、いずれかの段階で作戦が行き詰まると、作戦全体が頓挫するという問題を抱えている。つまり、最初のミサイル攻撃に成功したとしても、その後台湾や東シナ海周辺での海上・航空優勢の確保が難しいとなれば、そもそも中国側から攻撃を始める誘因自体が低下するはずである。

    日米は核兵器も含めた戦略策定を
    WEDGE Infinity(ウェッジ)

     次期防衛大綱・中期防の策定にあたって、日本政府は陸上自衛隊に中距離弾道ミサイル部隊を編成し、今後5年以内に実戦配備することを真剣に検討すべきである。ミサイルの長射程化は、ペイロードの増加に伴ってより破壊力の大きな(通常)弾頭の搭載を可能にするだけでなく、配備地点の柔軟性を高めることとなる。

     例えば、射程2000キロメートル級のMRBMであれば、ランチャーを九州にも配備した場合でも、中国沿岸から約1000キロメートル以内に位置する航空基地を13分以内に攻撃することが可能だ。一方、射程4000キロメートル級のIRBMであれば、ランチャーを北海道の演習場などに配備した場合でも、約20分で同様の目標を攻撃することができる。2000キロメートル遠方から発射することで生じる約7分の時間差は、固定目標を攻撃する上ではほとんど問題にならない。

     同様の効果は、米陸軍が開発を進めている射程約2800キロメートルの極超音速滑空ミサイル=LRHW(Long-Range Hypersonic Weapon)によっても得ることができる。米国は23年末までにLRHWのプロトタイプの配備を開始する予定であるが、中国は日米のような広域のミッドコースミサイル防衛システムの配備が進んでいないことから、通常の弾道ミサイルであっても有効な打撃を与えることは可能である。したがって、中距離弾道ミサイルと極超音速滑空ミサイルであれば、開発・配備・量産までにかかる期間が短い方を優先して取得・配備すべきであろう。

     これらの新たな打撃力が中国の台湾に対する誘惑を思いとどまらせ、地域の安定化に寄与するためには、米国がより高次――核レベル――での優越を維持し、中国が「核の影」をちらつかせてエスカレーション管理の主導権を奪おうとするのを阻止する努力も必要だ。だが、日米が配備する地上発射型の中距離ミサイルに、核弾頭の搭載を検討する必要はない(米国が開発している中距離ミサイルは全て通常弾頭用であり、そのことは国防長官を含む高官らによって何度も強調されている)。

     死活的に重要な米国の核戦力は、危機における安定性を悪化させないためにも、非脆弱な環境で運用されるべきであり、その役割は今後もSLBMが担い続けることが最適だからだ。この点において、18年以降に導入された低出力核SLBMは、即時対応可能な事実上の戦域核戦力としてエスカレーション・ラダーの隙間を埋める重要な役割を果たしている。

     先の日米2プラス2共同発表において、米国は「核を含むあらゆる種類の能力を用いた日米安全保障条約の下での日本の防衛に対する揺るぎないコミットメントを改めて表明」した上で、両国は「米国の拡大抑止が信頼でき、強靱なものであり続けることを確保することの決定的な重要性を確認」した。類似の文言は、過去の日米共同文書にも盛り込まれてはいるものの、核の役割低減を謳うバイデン政権からこのような言質をとったことには政治的な重要性がある。

     2プラス2の冒頭発言において、ロイド・オースティン国防長官が「統合的抑止力」の重要性に言及したように、今日必要な抑止力のあり方を考えるにあたって、核とそれ以外の要素を切り分けて議論することはできなくなっている。今、日米に必要なのは、グレーゾーンでの抑止から核エスカレーションの管理までを一体のものとして捉えた、真に統合的な同盟の抑止戦略に他ならない。

     この文脈において、日本が打撃力を持つことは、核を含む日米双方の能力をいつ、どのように、どの目標に対して使用するかに関する作戦計画立案とその実行プロセスに、日本がより主体的に関わるためにも必要不可欠と言えるだろう。

     『Wedge』2021年11月号のWEDGE SPECIAL OPINIONで「台湾有事は日本有事 もはや他人事ではいられない」を特集しております。
     台湾有事とは日本有事である――。日本は戦後、米国に全てを委ねて安住してきたが、もういい加減、空想的平和主義から決別し、現実味を帯びてきた台湾有事に備えなければならない。

    村野 将

  • >>154

    中国―韓国間のフェリーは「軍民両用」
     しかしここでいう海上輸送能力とは、主として中国海軍が持つ軍用の水陸両用艦艇にのみ着目した評価である。正確な時期は明らかではないものの、中国政府は商用の大型フェリーやコンテナ車両輸送船の造船業者に対して、戦時動員された際に国防上の必要性に応じることができることを保証する技術基準証明を発行してきた。

     また、中国―韓国間で運行している大型フェリーのプレスリリースには、軍民両用であることが明記されている。実際、近年人民解放軍はこれらの商用船舶を動員して、水陸両用作戦を実施する演習を定期的に行なっている。

     これらの商用船舶は非常に大型であり、上記の水陸両用強襲演習に参加したと見られる商用フェリー「渤海玛珠」は約3万3450トンもの大きさがある。先のシュガートらの推計によると、中国が有する大型フェリーは約75万トン、コンテナ車両運搬船は約42.5万トンにものぼり、これらの合計(117万トン超)は中国海軍が現在保有している全ての水陸両用揚陸艦艇の総数(37万トン)の3倍以上に達する(いずれも容積トン換算)。

     これらの大型商用船舶の多くは、平時には北部戦区(黄海周辺)と南部戦区(海南島周辺)に近い海域で運行されており、有事の際には速やかに東部戦区に移動して台湾侵攻にあたる部隊を支援しうることから、中国の海上輸送能力を飛躍的に向上させる可能性を秘めている。

    もはや「最小限抑止」にとどまらない核戦力
     台湾有事を考えるにあたって注視すべき第4の要素が、核戦力の増強傾向である。中国の中距離ミサイルは基本的に核・非核両用能力を持っていること、また近年では爆撃機にも核搭載能力が備わりつつあることは既に指摘した。これらは主として西太平洋地域までをカバーする核戦力であるが、中国の核態勢や核戦略が変化してきていることを伺わせる状況証拠は、米国本土まで到達するICBM戦力の動向にも現れている。

     21年には複数の民間専門家が行った商用衛星画像の分析を通じて、中国が最新型のICBM・DF-41用と見られるサイロを200カ所以上建設していることが明らかにされた。米国防省は既に20年版の年次議会報告書の中で、中国がDF-41用のサイロを建設している可能性を指摘していたが、公開情報分析によって、その実態がより詳しく世に知られることになったのだ。

     DF-41は1基あたり最大10発もの核弾頭を搭載しうるように設計されたICBMとされている(もっとも、実際に10発の核弾頭を搭載できるかどうかは、弾頭の軽量化技術に拠る)。このことは、米中の戦略的安定性と中国の核戦略にとって重要な意味を持っている。

     商用衛星画像で既に場所が特定されているように、固定サイロに配備されたICBMは先制攻撃に対して脆弱性が高い。しかも、1基に複数の核弾頭を搭載したミサイルは、それだけ戦力としての価値が高くなるから、中国としてはこれらが先制攻撃で破壊される前に発射してしまおうという誘因が働きやすく、危機における安定性が極めて悪化することが懸念される(こうした状況を避けるために、米国のICBMは多弾頭搭載能力を持ちながらも、全て単弾頭化されている)。

     米国防省は20年版の年次議会報告書から、中国の一部の核戦力が警報を受けた時点で、即時発射できるような態勢に移行しつつある可能性を指摘していたが、多数のICBMサイロの発見はこうした分析により説得力を与える材料になっている。

     さらに専門家を驚かせたのが、中国の核弾頭製造能力に関する評価である。中国が保有する核弾頭の数については、20年版の年次議会報告書でも「(現在の200発強から)今後10年で少なくとも倍増するだろう」と見積もられていた。ところが21年版の年次議会報告書では、高速増殖炉や核燃料の再処理施設を建設して、プルトニウムの生産・分離能力の向上が図られていることに鑑み、「30年までに少なくとも1000発の核弾頭を保有することを意図している可能性が高い」と、その見積もりを大幅に上方修正したのである。

     世界各国の核態勢に詳しい米科学者連盟のハンス・クリステンセン氏は、長らく中国の核戦力は、報復によって米国の一部の都市だけ破壊しうる最小限の核戦力を保持する戦略(最小限抑止)の下で抑制的に発展してきた、と主張してきた。しかし、そんな彼も「もはや、中国が最小限抑止を維持していると考えることは難しくなった」と認識を改めている(奇しくも、クリステンセンはこれらの新設サイロ群を発見した専門家の1人である)。

    中国が行動に出る危険性は高まるばかり
     また21年7~8月にかけて、中国が地球を周回する極超音速滑空体の実験を複数行なっていたことも確認されている。中国の報道官はこれを「再利用可能な宇宙機の実験」と説明しているが、米軍関係者によれば、滑空体は「(減速せずに)目標に向かって加速した」と証言している。

     このことからすると、中国は米国本土のミサイル防衛を確実に突破することを目的として、冷戦期にソ連が開発していた部分軌道爆撃システム(FOBS)と、ブーストグライド型の極超音速滑空体を組み合わせた技術を開発している可能性がある。元々、米国本土のミサイル防衛は、大量のICBMによる攻撃を阻止することは想定されていないため、中国がFOBSを配備したとしても米中間の戦略的安定性に大きな変化はない。しかし、アラスカに集中配備されたミサイル防衛を迂回して米国本土を攻撃できるとなれば、中国は大量のICBMによる大規模核攻撃を伴わない形で、米国に限定攻撃を仕掛けるという、これまでにない段階的エスカレーションの一手段を獲得することになる。

     ICBMの増勢やFOBSに相当する技術の蓄積を通じて、中国は米国に対して、両国間の相互脆弱性をより公式な形で認めさせようとしていると考えられる。もし米国本土が容易に脅かされるような状況になれば、中国はたとえ危機がエスカレートしたとしても「米国の核使用を抑止できる」との自信を強めるようになり、結果的に、台湾を含む西太平洋地域におけるグレーゾーンや通常戦力の睨み合いの中で、リスクを厭わない行動を取るようになる危険性がこれまで以上に高まることになるだろう。

    今、何をしなければならないのか
    日米2プラス2では、台湾有事も想定した「緊急事態に関する共同計画作業」への進展も歓迎している

     このように、中国は台湾有事に際して、米国の介入を実力で阻止する能力を着実かつ急速に構築している。そしてそれらの諸要素は、平時・グレーゾーンにおける台湾に対する強制力行使から、通常戦力による対米介入阻止、そして核エスカレーションの管理に至るまで、全てが相互に連関している。

     「中国が台湾の武力統一を試みる蓋然性は高くない」という見通しは、ただ単に現状を説明にしているにすぎない。われわれが自らの能力を高める努力を怠れば、そうした前提は近い将来、覆されてしまうだろう。対中抑止の「失敗」を避けるためには、平時の情報収集・監視・偵察能力から、宇宙・サイバー・電磁波領域を含む各種通常戦対処能力を経て、最終的には米国の核戦力にまで連なる「切れ目のない」能力を速やかに強化する以外にない。

     現在バイデン政権は、国家防衛戦略(NDS)や核態勢の見直し(NPR)をはじめとする戦略文書を策定している最中にあるが、岸田文雄政権も同様に、22年末までに日本の安全保障政策の根幹となる戦略文書(国家安全保障戦略、防衛計画の大綱、中期防衛力整備計画)を見直すことを表明している。

     この点につき、22年1月7日に行われた日米安全保障協議委員会(2プラス2)において、両国は「同盟としてのビジョンや優先事項の整合性を確保することを決意」し、とりわけ日本は「ミサイルの脅威に対抗するための能力を含め、国家の防衛に必要なあらゆる選択肢を検討する」ことを米国に公約した。また両国は、「このプロセスを通じて緊密に連携する必要性を強調し、同盟の役割・任務・能力の進化及び緊急事態に関する共同計画作業についての確固とした進展を歓迎」してもいる。

     すなわち、今後日米は、同盟の役割・任務・能力の見直しを行う中で、いわゆる敵基地攻撃能力を含む新たな要素をどのように位置付けていくかを議論していくこととなる。そして、「緊急事態に関する共同計画作業」には、台湾有事を想定した共同作戦計画の具体化が含まれることとなろう。

  • >>153

     だが近年中国は、米国の介入を阻止するための能力を驚くべき速さで向上させている。中でも注目すべきなのは、中距離ミサイル戦力、爆撃機戦力、艦艇・船舶の建造能力、そして核戦力の増強傾向である。

     第一に、中国の中距離ミサイル戦力が増強され続けてきたことは、日本でもようやく一般に認知されるようになってきた。しかし、その増強ペースは専門家でも〝度肝を抜かれる〟ほどだ。日本では北朝鮮のミサイル発射が注目されがちだが、中国が20年に実験や訓練などで行った弾道ミサイル発射は250発を超える。これは同年に中国以外の国で行われたミサイル発射を全て足し合わせた数よりも多い。

     ミサイル本体や移動式ランチャー(車載型のミサイル発射装置)の増産も著しい。例えば、米軍の一大拠点であるグアムを攻撃範囲に収める射程4000キロメートルの中距離弾道ミサイル(IRBM)DF-26のランチャー数は、18~19年のたった1年間で80両から200両へと2倍以上に増加している。

     19~20年にかけてはランチャーの増勢は見られなかったものの、DF-26のミサイル本体については約200基から300基へと100基分の予備弾が増産されたことが確認されている。また、日本を射程に収める準中距離弾道ミサイル(MRBM)は、19~20年に100両分が増産されて計250両となった上、ミサイル本体に至っては19年に150基以上とされていたものが、20年には600基と凄まじい勢いで増産されていることが明らかになった。

     しかもこれらの増加分の多くは、DF-17と呼ばれる極超音速滑空ミサイルだとみられる。21年の時点で、DF-17が即時投入可能なMRBM戦力の約4割を占めていると仮定すると、20年代後半にはこれらの増勢がさらに進んで、南西諸島を含む西日本の自衛隊基地・在日米軍基地の大半が開戦と同時に瞬時に無力化されてしまうという状況が現実味を帯びてくる。これは日本の防衛態勢を考える上で極めて憂慮すべき事態である。

     さらに言えば、MBRM戦力の増勢はより射程の長いDF-26に運用上の柔軟性を与えることにも繋がる。これまでにもDF-26は、DF-21Dと並んで「空母キラー」と称されてきたが、ランチャーの増勢によって同時発射能力が強化されたことに加え、予備弾が追加されたことで、DF-26は空母のような高価値目標に限定することなく、イージス艦や補給艦などのその他の艦艇にも使用されうる対艦弾道ミサイル(ASBM)となりつつある。

     このままDF-26の増勢傾向が続けば、危機の際にマラッカ海峡などのシーレーンを封鎖しようと東南アジアやインド洋の東側に展開する米軍や同盟国の艦艇にも脅威がおよぶ可能性が出てくる。

    先行使用の可能性も見せる
     またDF-26が艦艇を攻撃できるほどの命中精度を持っているとすれば、それは地上目標に対する精密打撃能力としても用いられる可能性がある。これはレーダーや無人機の管制システム、指揮統制ネットワークなどの地上ユニットが、第一列島線はもとより第二列島線内のどこにいても、常にDF-26の攻撃に晒されるリスクがあることを意味する。

     DF-26の増勢に憂慮すべき理由は他にもある。それはDF-26が核・非核両用のIRBMだということだ。元々、中国のミサイル戦力はICBMと短射程の戦術ロケットを除けば、その大半が核・非核両用の運用能力を持っているとされている。ただし、これまで中国は、安全のために平時には核弾頭をミサイルから分離して保管していると言われており、それが核の先行不使用(no first use: NFU)政策を一定程度裏付けるものと見られていた。

     ところが、近年情報機関や専門家による分析の結果、人民解放軍のミサイル部隊は、即応性向上の観点から、戦闘準備態勢と厳戒態勢とを絶えず繰り返すローテーション訓練を定期的に行なっている様子が確認されている。中でもDF-26を運用する旅団は、前線で通常弾頭と核弾頭を素早く交換する訓練を実施しているとみられる。

     これは従来の定説と異なり、核弾頭の一部が平時からミサイルに搭載されたまま、即応状態を維持していることを示唆している。さらに言えば、DF-26が本当に高い命中精度を持っているのだとすれば、なぜ核・非核両用の運用態勢をとっているのかを合理的に説明することは難しい。これらを総合すると、中国のミサイル運用態勢は、核の先行不使用を裏付けるというよりも、むしろ特定の状況下での先行使用可能性を示唆するものだと考えられるのである。

    爆撃機戦力の近代化進める
     中国の対米介入阻止能力を支える第2の要素が、爆撃機戦力の近代化と増勢である。中国の主力爆撃機であるH-6は、元々1950年代にソ連で開発されたTu-16爆撃機を国産化したもので、ミサイル搭載能力やその投射距離も限定的であった。ところが、2009年から実戦配備が始まったH-6Kは、機体設計やエンジンの改修が行われており、ほとんど別の爆撃機となっている。

     その結果、作戦行動半径は3500キロメートルに延伸され、巡航ミサイルの搭載能力も2発から6発に拡張されている。加えて、ミサイル(YJ-18超音速対艦巡航ミサイルなど)の射程も延伸されているため、中国の近代化された爆撃機部隊は、第二列島線内の地上部隊や空母打撃群をスタンドオフ攻撃することが可能となっているのである。さらに近年では、空中給油能力と空中発射型弾道ミサイル搭載能力を持つH-6Nと呼ばれるタイプも確認されており、米国防省はこれをもって中国が核戦力の「三本柱(陸:ICBM、海:SLBM、空:爆撃機)」を完成させたと分析している。

     また中国は、旧型のH-6を近代化改修型のH-6K以降のタイプに置き換えるだけでなく、爆撃機戦力全体の規模を拡大しているとみられる。長年米海軍で情報分析や戦略立案に関わってきた経験を持ち、現在は新米国安全保障センター(CNAS)客員上席研究員を務めるトマス・シュガート氏が商用衛星画像を基に中国の爆撃機基地の拡張状況などを継続的に確認したところ、近代化されたH-6の総数は18年時点で200機強、20年時点で最低でも230機以上が配備されていると推定されている(なお、ミサイル搭載能力や運用構想の観点から単純な比較はできないものの、20年時点で米空軍が保有する爆撃機の総数は、B-1、B-2、B-52を合わせて158機である。さらに、米国の爆撃機戦力のうち核搭載能力を持つ機体については、米露間の軍備管理条約である新STARTのカウンティング・ルールに合わせて制約を受ける)。

     これらの爆撃機部隊は、有事の際には地上発射型の中距離ミサイルと合わせて、日本やグアムの固定施設や、移動中の海上自衛隊・米海軍艦隊を脅かし、日米のミサイル防衛体制に多くの負荷をかけることになるだろう。

    造船は軍、商用の両面でペースを上げる
    中国による艦艇の建造・就航は急ピッチで進んでいる

     注目すべき第3の要素は、中国の艦艇建造能力である。ミサイル戦力の増勢もさることながら、中国は艦艇の建造ペースも非常に速い。中国海軍は既に15年の時点で、総隻数という観点からは世界最大の海軍となった。もっとも、これは中国海軍が比較的小型の艦艇を大量に保有することからくるもので、総トン数では未だ米海軍に優位がある。

     しかしながら、この優位は次第に自明視できるものではなくなりつつある。中国が15~19年のうちに進水させた艦艇の総計は60万トン以上と、同じ期間に米海軍が進水させた艦艇の総トン数の2倍に相当する。実際、中国の造船所では、空母や最新鋭の駆逐艦、大型巡洋艦、強襲揚陸艦、潜水艦などが急ピッチで建造されている。これらを踏まえると、中国海軍は35~40年頃までに、総トン数においても米海軍に匹敵する規模となる可能性がある。

     これと関連して注視すべき点は、中国の造船ペースの速さは軍だけの傾向ではないということだ。中国は世界最大の商用造船能力を持っており、20年には総計2300万トンもの船を建造している。これが何を意味するのか。前述の通り、中国が台湾への本格侵攻を実行するにあたって大きなリスクとなるのは、米軍の介入可能性に加えて、大規模着上陸侵攻に必要な海上輸送能力が不足しているという点だった。この事実は、米国防省のみならず、多くの軍事専門家の間で共有されている。

  • 中国が台湾侵攻を決断へ その日、日本が〝戦場〟になる
    1/18(火) 6:01配信
    Wedge

    台湾海軍が22年に入りすでに軍事演習をしている(ロイター/アフロ)

     「台湾危機はどれほど切迫しているのか」。長らく台湾の安全保障をめぐる問題は、日米の外交・防衛当局者や一部の専門家など、ごく一部の限られた人々の関心事項に過ぎなかった。しかし、今や台湾問題は、メディアで最も頻繁に取り上げられるようになった国際政治上の課題の一つと言っても過言ではない。

    米国内でも別れる「切迫した脅威」への見解
     台湾の安全保障への関心が急速に高まる直接のきっかけとなったのは、2021年3月9日にフィリップ・デイビッドソンインド太平洋軍司令官(当時)が行った「台湾への脅威は、今後6年以内(筆者注:2027年)に明らかとなる」との議会証言であった。また、これに続く3月23日の議会公聴会では、デイビッドソンの後任となるジョン・アクイリノ現インド太平洋軍司令官が「(中国による台湾侵攻の脅威は)多くの人が考えているよりも切迫している」と証言し、関心の高まりに拍車をかけた。

     事実として、台湾に対する中国の軍事的圧力は日に日に強まっている。例えば、中国軍機による台湾の防空識別圏への侵入は増加傾向にあり、21年10月4日には、12機のH-6爆撃機や36機のJ-16戦闘機を含む計56機の侵入が確認された(20年9月に台湾国防部が中国軍機の動向を公表し始めて以来、最多)。その後、台湾の邱国正国防部長は、10月6日に行われた立法院の国防予算審議の中で、「中国は2025年には全面的に台湾に侵攻できる能力を持つ」とさえ語っている。

     しかしその一方で、日を追うごとに高まる台湾問題への危機感をトーンダウンさせるような動きも見られるようになっている。米軍トップのマーク・ミリー統合参謀本部議長は、6月17日の議会公聴会において、「中国にとって台湾は、依然として核心的利益だ。しかし、現時点で台湾を軍事的に統一しようという意図や動機もほとんどなく、(中略)近い将来にそれが起きる可能性は低いと思う」と証言している(11月3日、ミリー氏は「(近い将来とは)向こう半年から1、2年」という意味だとも述べている)。

     同様に、日米の中国専門家の中にも「米軍と衝突する可能性の高い台湾本島への本格的な武力侵攻は、政治的にも軍事的にもハードルが高く、習近平にとってリスクが大きすぎる」「台湾情勢は世間で騒がれているほど切迫しているわけではない」という声は少なくない。

    必要なのは危機への予想ではなく、危機を防ぐ具体策
     台湾危機は差し迫っているのか。こうした観点から、世間やメディアの関心が高まるのは自然なことではある。しかし、国際情勢の変化は、地震や台風などの自然災害のように、個人や国家の意思が及ばないところで、ある日突然起きるものではない。それは国家間の意思や能力の相互作用の中で生じるものであるから、各国が「今、何をするか」によって、将来起こりうる事態の性質やそのタイミングは自ずと変化する。

     台湾有事が起きれば、それがどのような形であったとしても、日本も当時者となることは確実であり、決して傍観者ではいられない。こうした点に鑑みれば、われわれにとって重要なのは、台湾危機や米中戦争が起きるか起きないかをあたかも占いのように予想することではなく、それらの危機をできる限り遠ざけるために、「今、何をしなければならないのか」という視点に立って直面する課題を捉え直すことである。

     台湾をめぐって危機が発生する状況としては、明示的な武力行使を伴わないグレーゾーン・シナリオから、離島に対する限定侵攻シナリオ、経済・情報封鎖によって中国との外交交渉を強制するシナリオ、そして台湾本島への全面的な武力侵攻シナリオに至るまで、さまざまなシナリオが考えられる。しかし一つ確かなのは、これらの現状変更行動はいずれも中国側から開始されるということだ。言い換えれば、中国の台湾に対する強制行動はどのような形であれ、中国に対する抑止が「失敗」することによって始まる。

    対中抑止が「失敗」する可能性
     では、台湾をめぐる対中抑止の「失敗」はどのように生じるのだろうか。台湾は、米国の軍事的な後ろ盾無くして、自身の存立を維持することはできない。したがって、中国の台湾に対する誘惑を思いとどまらせることができるかどうかは、米国が介入するか否かにかかっている。

     当然ながら、米国が台湾を防衛するにあたり西太平洋地域に戦力を投射する場合には、日本はその最重要拠点となる。それゆえ、日本が米国の台湾防衛作戦を支援するかどうかも、対中抑止の成否を分ける死活的に重要な要素となることには留意すべきだ。しかし、日本もそれ以外の米国の同盟国も、まずは米国が介入することを決断しなければ、独力で台湾を守ることはできないことから、やはり米国の行動が決定的な重要性を持つことに変わりはない。

     その上で、台湾をめぐる対中抑止が失敗するケースとしては、大きく分けて2つの原因が考えられる。

     一つは、米国が台湾防衛に十分な能力を持っているにもかかわらず、その能力を行使しない場合。もしくは米国に台湾防衛の意思があったとしても、中国に対してそれが正確に伝わらず、「米国は介入してこないだろう」との誤算に基づいて、中国が台湾に手を出してしまう場合である。そしてもう一つは、米国の台湾を防衛するための能力自体が欠けている場合である。

     危機の原因が中国による米国の意思の見誤りにあるのだとすれば、そうした危機は、台湾に対する米国の防衛コミットメントの意思をより明確かつ具体的にすることで未然に防止することができる。外交問題評議会会長のリチャード・ハースらが提唱している「戦略的曖昧性」の見直しなどは、その一例と言える。

     しかし、宣言政策の修正によって抑止できるのは、東沙諸島や南沙諸島の太平島などの離島を短期間で奪取して既成事実化を試みようとする場合のように、中国が米国の介入可能性を相対的に低く見積もっているシナリオに限られるだろう。

    中国は米国の介入「意思」だけでなく、「能力」を見る
     中国が最終的に台湾本島への侵攻にエスカレートしうるような武力行使を決断するとすれば、それは中国指導部にとって失敗の許されない極めて大きな利益のかかった作戦となる。失敗した場合に被る政治的リスクの大きさに鑑みれば、中国指導部が台湾への本格侵攻に着手する際に、「米国は介入してこないだろう」などという不確実な期待に賭けて行動を起こすことは考えにくい。

     だとすれば、中国が本格的な侵攻を決断するのは、米国が介入してくることを覚悟した上で、たとえ衝突に至ったとしてもそれを実力で退けることができるという自信をもった時ということになる。

     この場合、中国は米国の介入「意思」ではなく、介入「能力」を低く見積もることによって行動を起こすのであるから、本格的な侵攻は、米国政府がどんなに力強い言葉で台湾防衛の意思を示したとしても、中国の目標達成を実力で拒否する能力が伴っていなければ阻止できない。

     米中関係をめぐっては、「中国は、米国と本気で戦争することを望んでいるわけではない」と説明されることがある。しかし、こうした説明は台湾をめぐる対中抑止政策を考える上ではほとんど意味がない。

     多くの中国専門家が指摘しているように、現在の中国指導部が、本格侵攻による武力統一以外のオプション(例:武力による脅しを背景とした強制や親中世論の醸成)を優先的に追求しているのだとすれば、それは武力統一に伴う米国との衝突リスクを高く見積もっていることの裏返しでもある。

     逆に言えば、米国の介入能力が低下してしまえば、中国は武力衝突に伴うリスクが低くなったと判断して、台湾に対してより大胆な脅しをするようになるであろうし、実際に武力統一に乗り出す誘因も高めてしまうことになる。つまり、中国の強制力を弱めるにしても、本格侵攻を阻止するにしても、米国が十分な介入能力を保持しておくことは中国に対処する上での絶対条件なのである。

    中国は日本の基地を無力化させる力持つ
     改めて整理すると、「中国が台湾へ本格侵攻する可能性は当面低い」との評価は、武力統一が失敗するリスクが高いとの前提に則っており、そのリスクは主として、(1)米国の介入と、(2)着上陸侵攻能力の不足に由来する。

  • 米利上げでも中国は金融緩和の方向-20日発表のLPR引き下げか
    1/17(月) 20:40配信

    (ブルームバーグ): 米連邦準備制度が3月にも利上げを開始しようとする中で、中国の主要金利引き下げが中国人民銀行(中央銀行)のさらなる金融緩和への扉を開くとエコノミストらはみている。

    人民銀は17日、中期貸出制度(MLF)を通じて1年物資金7000億元(約12兆6000億円)を金融システムに供給した。金利は従来の2.95%から2.85%に引き下げた。また、7日物リバースレポを通じ1000億元も供給。金利は従来の2.2%から2.1%に下げた。

    中国人民銀、1年物MLF金利を2.85%に引き下げ-20年4月以来

    MLF金利の引き下げに続き、人民銀は20日に発表するローンプライムレート(LPR)も引き下げると見込まれている。LPRは新規貸出金利の指標。1年物のLPRは昨年12月にすでに5ベーシスポイント(bp、1bp=0.01%)引き下げられており、先月据え置かれた5年物が引き下げられるかどうかに注目が集まっている。

    中国、1年物ローンプライムレート下げ-不動産で打撃の景気支援

    ゴールドマン・サックス・グループの魏琪氏らエコノミストは17日のリポートで、5年物LPRの5bp引き下げを予想。不動産ローンの参照金利である5年物の引き下げが「広範な不動産政策緩和に関するシグナルを送る」とコメントした。

    ゴールドマンはまた、人民銀がいずれかの時点で景気支援のため50bpの預金準備率引き下げを行うとも想定している。

    中国の貿易黒字が高水準で推移しているほか、外国勢による人民元建て資産の買いで外国からの力強い資本流入は続く公算が大きく、元安・資本流出圧力は引き続き小さいと分析。こうした状況も「今年の米金融引き締めにもかかわらず人民銀がさらに緩和する余地を示唆する」と指摘した。

    原題:PBOC Seen Cutting Rates Further, Lowering RRR to Aid Economy (1) (抜粋)

    (c)2022 Bloomberg L.P.

  • 第一生命経済研究所 経済調査部 主席エコノミスト・西濵 徹氏

    中国の2021年の経済成長率は+8.1%と10年ぶりの水準に
    プラスのゲタは+6.3ptと試算されるなど「実力」は+1.8%程度、今年の成長率は大幅鈍化が不可避

     一昨年の中国経済は新型コロナ禍を経て深刻な景気減速に見舞われたが、その後は感染一服や政策支援に加え、外需の底入れも追い風にいち早い回復を遂げた。ただし、昨年は政策の失敗が相次ぐ一方、世界経済の回復は景気を下支えする展開が続いた。10-12月の実質GDP成長率は前年比+4.0%に鈍化したが、前期比年率ベースでは+6.6%と外需が押し上げる動きがみられた。昨年通年の経済成長率は+8.1%と10年ぶりの高成長となったが、+6.3ptものプラスのゲタが試算されるなどその実力は乏しいものと捉えられる。

     月次統計では、12月の小売売上高は名目ベースで前年比+1.7%、実質ベースでは同▲0.5%と、雇用の回復の遅れや当局の「ゼロ・コロナ」戦略が家計消費の重石となる動きに繋がっている。他方、世界経済の回復が輸出を押し上げるとともに、当局による電力不足解消に向けた動きも重なり、鉱工業生産は前年比+4.3%と底入れしている。なお、固定資産投資は年初来前年比+4.9%と伸びが鈍化しているものの、単月ベースでは5ヶ月ぶりに前年を上回る伸びに転じるなど、金融緩和の動きは投資活動を下支えしている模様である。

     昨年は10年ぶりの高成長となる一方、今年はゲタが+2.0pt程度に縮小しており、実力を勘案すれば成長率は鈍化が避けられない。ただし、共産党大会を前に当局は「経済の安定」を重視しており、政策の総動員を図ると見込まれる。他方、新型コロナ禍を経て人口減少は想定以上のペースで進むことも予想されるなか、中長期的にみた中国経済を取り巻く状況は急速にこれまで以上に厳しい展開となる可能性が考えられる。

  • 2022-01-17 08:48
    ニュース
    中国ITの主役交代、「ハードテック」に資金殺到=WSJ

    米ウォールストリーと・ジャーナル紙は、中国ITの主役交代、「ハードテック」に資金殺到、政府の方針転換、投資家も便乗する動きと報じた。

    中国では、電子商取引最大手アリババグループや配車サービス大手の滴滴(ディディ)グローバルなど、消費者向けテクノロジー企業への締めつけが強まる一方で、記録的な投資マネーが同国のテクノロジー産業に流入している。

    電子商取引分野の新興企業に資金が集中していたそれまでの数年間とは異なり、昨年は共産党の優先課題により近い分野(半導体、バイオテクノロジー、情報技術)に大量の資金が向かった。
    調査会社プレキンが運営する投資データベースの集計によると、2021年にベンチャーキャピタル(VC)投資家は、中国の5300社余りの新興企業に1290億ドル(約14兆7000億円)を投じ、2018年の過去最高記録(約1150億ドル)を塗り替えた。プレキンは2000年から中国のVC取引を集計している。

  • 「自国通貨の相場を人工的に操作しようとする外国政府の動きに、財務省は絶えず目を光らせている」(イエレン米財務長官)

    1. 中国政府の低金利圧力
     2021年12月3日に米財務省が公表した「為替報告書」では、中国に関して、「主要国のなかで特に為替政策の透明性が欠如している」と明記し、今後の政策を注意深く監視するとした。「中国国有銀行の動向を注視する」と訴え、不公正な貿易慣行を含めて監視を続けると明記した。米財務省が「監視対象国」である中国の為替政策や中国人民銀行の動向を監視する、と警告したにも関わらず、中国人民銀行は、低金利策と人民元安誘導に乗り出している。中国政府は、対外的には、バイデン米政権が台湾や新疆ウイグル自治区を巡り、北京冬季オリンピックの「外交的ボイコット」に乗り出して中国との対立を激化させつつある中、人民元安により、トランプ前政権との「通商合意」の破棄を目論んでいるのかもしれない。
     対内的には、中国人民銀行に低金利圧力をかけることで、中国の不動産バブル崩壊の軟着陸を目論んでいる可能性が指摘されている。
     中国政府は、2020年夏に導入された「三つのレッドライン」と呼ばれる不動産企業の資金調達条件の厳格化措置により、「グレーリノ(灰色のサイ)」の根絶、すなわち、国内総生産(GDP)の30%を占める不動産バブルの秩序ある崩壊を目論んだ。「三つのレッドライン」(負債の対資産比率70%以下、純負債の対資本比率100%以下、手元資金の対短期負債比率100%以上)により、不動産企業を4分類して、債務規模を制限してきた。三つのレッドラインを超えた「レッド企業」は有利子負債を増やしてはならない、二つ超えた「オレンジ企業」は有利子負債の増加ペースが年5%以内となるよう管理監督され、一つ超えた「イエロー企業」は有利子負債の増加ペースは年10%以内に抑制、レッドラインに一つも引っかからない「グリーン企業」では有利子負債の増加ペースが15%以内に抑制される。
     「レッド企業」に分類されていた中国恒大集団は、広東省政府主導で粛々と解体されていくのかもしれない。
     習中国国家主席は、2022年の経済政策の基本方針を決定する「中央経済工作会議」で「住宅は住むためのもので投機の対象ではない」と述べ、抑制策を続ける方針を改めて強調した。
     中国の反汚職トップ機関から派遣された共産党の規律検査官が、中国人民銀行の本部に立ち入り調査を実施し、異例の厳しい警告を行った、と報じられている。中国政府は中銀の独立性に関する議論は決して容赦せず、中国人民銀行は他の政府組織と同様、共産党に従う必要がある。

    2. 2021年12月の中国人民銀行の人民元安誘導
     2021年の人民元は対ドルで約2.7%上昇した。堅調な輸出、貿易黒字の拡大、中国資産への安定した資本流入、中国国内での潤沢なドル流動性が元高要因となった。しかし、12月には、人民元安誘導の措置が取られ始めている。
    ■銀行預金準備率:12月15日から実施
     12月6日、中国人民銀行は銀行預金準備率を0.50%引き下げ、12月15日から実施すると発表した。
    ■外貨準備率引き上げ:12月15日から実施
     12月9日、中国人民銀行は、金融機関の外貨の預金準備率を12月15日から7%から9%に引き上げると発表した。引き上げは今年2回目となり、市場では最近の急激な人民元上昇を緩和する狙いがあるとの見方が出ている。
    ■国家外為管理局(SAFE):12月15日から実施
     適格国内機関投資家(QDII)投資枠を35億ドル引き上げた。
    ■最優遇貸出金利:1年8カ月ぶりの利下げ
     12月20日、中国人民銀行は、12月の最優遇貸出金利(LPR、ローンプライムレート)の1年物を3.80%と、前月から0.05%引き下げた。

    3.2022年の中国人民銀行の人民元安圧力警告
     2022年1月5日、中国人民銀行が刊行する金融時報は、人民元が2年連続の上昇を経て、今年は元安圧力に直面しているとの見解を示した。2022年は、利回りに関する優位性の低下、ドル高、貿易黒字の縮小、世界市場の不確実性などの一連の要因が人民元に下落圧力をもたらす可能性があると指摘した。

  • 海外投資家の中国国債保有、昨年は過去最高 政策乖離で伸び鈍化
    1/11(火) 16:04配信

    中国の銀行間債券市場証券決済機関である中央国債登記結算(CCDC)が10日夜に発表したデータによると、海外投資家による中国国債保有高は2021年12月末時点で2兆4500億元(3845億1000万ドル)となり、過去最高に達した。

    [上海 11日 ロイター] - 中国の銀行間債券市場証券決済機関である中央国債登記結算(CCDC)が10日夜に発表したデータによると、海外投資家による中国国債保有高は2021年12月末時点で2兆4500億元(3845億1000万ドル)となり、過去最高に達した。

    ただ、米中の金融政策の乖離で中国債券のイールドプレミアムが縮小する中、保有高の拡大ペースは鈍化。ロイターの算出によると、前年比では30.7%増で、20年に記録した43.7%増よりも低下した。

    中国の政策銀行が発行する準ソブリン債の保有高は前月比1%増の1兆0800億元となり、過去最高を記録。前年比では18%増で、こちらも20年の84.4%増から伸びが鈍化した。

    鈍化は米中利回りのスプレッド縮小を反映。10年債利回り格差は12月末までに100ベーシスポイント(bp)近く縮小し、124.52bpとなった。

    スタンダード・チャータードのアナリスト、ベッキー・リウ氏とジェフリー・チャン氏は中国の金利について、22年第1・四半期は、追加の政策緩和、成長の鈍化、発行低迷により低下し続けると予想。しかし、その後の数四半期では供給の増加と成長の安定化により上昇する可能性があるとした。

    ノートで「22年には中国とほとんどの先進国との間で、まれに見る金融政策の乖離が生じるだろう。上半期には再融資や再割引制度を通じた的を絞った措置に加えて、より広範な預金準備率(RRR)引き下げなど、より大幅な金融政策の緩和が実施されるリスクがあるとみている」と指摘。ただ、比較的高水準のキャリー取引やリターン向上見込みから、22年も海外からの資金流入が安定的に拡大する可能性があるとした。

  • >>144

    日本株の個別テーマでいえば、適度なインフレは金融株などにプラス効果をもたらす。すでに足元では米FRBによる金融緩和の見直しペース加速と米国発の金利上昇などにより、利ざや改善期待で銀行株や保険株などが上昇となっている。

    金融庁では「インフレは小幅かつ安定的に推移するならば、物価の上昇に伴い、企業や家計が保有している不動産・株式の資産価値が上昇する」といった指摘を行っており、こうした効果も銀行株や保険株のほか、証券株などにはプラスとなる。証券株については、勢いは限られるものの、個人などによる「インフレ対策としての株式シフト」の広がりも焦点になりそうだ。

    すでに日銀の国内企業物価指数は、消費税を除いたベースで昨年11月に前年比+9.0%の急上昇となってきた。1986年以降では最高水準の大幅プラスになっている。過去には企業物価の急上昇後、遅行でコアCPI(生鮮食品を除く消費者物価指数)の前年比も部分的に押し上げられている。連動して東証の業種別株価指数では、証券・商品先物取引業の上昇支援効果が観測されてきた。

    過去に企業物価指数が前年比+3.5%の上昇となった2017年に、証券・商品先物取引業の前年比は月間高値比較で+32.6%までの上昇が連動支援された。2006年も企業物価+2.7%への上昇と前後して、同株価指数は+96.7%の大幅高が観測されている。

  • 海外に続いて日本でもインフレ警戒感が高まりつつあり、現預金の価値低下(希薄化)が意識される。コロナ警戒を受けた現預金滞留の反動との二重効果により、個人資産などでは現預金から株式への部分シフトが注目されやすい。

    内閣府による12月の消費動向調査では、1年後の物価見通しで「上昇する(+5%以上)」が30.7%となり、約8年ぶりの高水準になってきた。資産としての日本株の信認という点では、日経平均株価の年間成績は2012年以降、日銀緩和効果というカサ上げはあるものの、過去10年で9年はプラスという信用力の改善も見られている。

    「物価はお金と物のいわば交換レートであり、インフレで物価が上昇していくということは、貨幣価値が低下していくことと同義」、「インフレは小幅かつ安定的に推移するならば、物価の上昇に伴い、企業や家計が保有している不動産・株式の資産価値が上昇する」、「インフレは債権を有している人にとっては不利に働く。定期預金など一定期間金利が固定されている金融資産を保有している場合や、物価スライド制が完全ではない年金受給者などからすれば、インフレは自身の資産を目減りさせる厄介な経済状態となる」。
    金融庁では以前に一般国民に向け、インフレとデフレに関してこのように噛み砕いた解説を行っている。

    現在の日本では世界的な供給・輸送・人手制約や素原材料価格の高騰、品不足、為替円安などもあり、悪い物価とインフレの上昇が懸念され始めた。悪い物価上昇にせよ、適度な良い物価上昇(デフレ脱却)にせよ、先行きインフレの「上昇警戒」や「上昇見通し」は、長期デフレに慣れきった日本の個人に対し、ジワリと現預金や債権などの目減り対策を喚起させていく。

    過去の「現預金減」と「株式資産増」の局面では、日経平均が四半期ベースの前年同期比で2018年に+4461円幅、2006年に+5651円幅、2000年に+4372円幅といった株高実績が見られてきた。昨年2021年の高値は、2万9000円から3万円の前後となっている。今年は単純に前年比+3000円幅から+4000円幅の上昇としても3万3000円から3万4000円方向の株高余地は可能性として無視できない。

    現在の場合、2020年からの株高を受けた資産効果もあり、すでに株式資産の比率は2020年1−3月の5.1%をボトムとして、2021年7−9月には6.8%に拡大してきた。それでも過去には2005−2006年にかけて+7.0%から+7.6%といった拡大実績があり、比率拡大の余地は残されている。

    しかも現在は家計の金融資産合計自体がコロナ危機以降、政府給付金や消費抑制、現預金滞留、株高効果などにより、改めて増加となってきた。2020年1−3月の1816.6兆円から2021年7−9月には1999.8兆円と過去最高を更新している。同期間に+183兆円の増加となっているが、過度な安全逃避の後退もあり、そうした増加分の部分的な株式配分が注目されやすい。

    資産としての日本株の信認についても、1990年代以降の長期低迷や投資家の損失打撃、長期不信が是正されつつある。良くも悪くもながら、2012年以降は日銀による超金融緩和のカサ上げ効果もあって、日経平均株価の年間成績は10年のうち9年(9回)がプラスになるという信用の改善が見られている。2012年−2021年の10年における年初のスタート値から年末の終値比較、あるいは年末時の前年末比では、2018年を除いて全てプラス化というトラッキング・レコードが確立されてきた。

    日本株の個別テーマでいえば、適度なインフレは金融株などにプラス効果をもたらす。すでに足元では米FRBによる金融緩和の見直しペース加速と米国発の金利上昇などにより、利ざや改善期待で銀行株や保険株などが上昇となっている。

    金融庁では「インフレは小幅かつ安定的に推移するならば、物価の上昇に伴い、企業や家計が保有している不動産・株式の資産価値が上昇する」といった指摘を行っており、こうした効果も銀行株や保険株のほか、証券株などにはプラスとなる。証券株については、勢いは限られるものの、個人などによる「インフレ対策としての株式シフト」の広がりも焦点になりそうだ。

    すでに日銀の国内企業物価指数は、消費税を除いたベースで昨年11月に前年比+9.0%の急上昇となってきた。1986年以降では最高水準の大幅プラスになっている。過去には企業物価の急上昇後、遅行でコアCPI(生鮮食品を除く消費者物価指数)の前年比も部分的に押し上げられている。連動して東証の業種別株価指数では、証券・商品先物取引業の上昇支援効果が観測されてきた。

    過去に企業物価指数が前年比+3.5%の上昇となった2017年に、証券・商品先物取引業の前年比は月間高値比較で+32.6%までの上昇が連動支援された。2006年も企業物価+2.7%への上昇と前後して、同株価指数は+96.7%の大幅高が観測されている。

    ただでさえに日本では2年前からのコロナ危機以降、安全逃避による現預金滞留が再加速されてきた。今後はその反動とインフレ対策との二重効果により、現預金から株式を含めたリスク資産への部分的なシフトが注目されやすい。すでに良くも悪くもながら「インフレに伴う貨幣価値の低下」も一つの材料となる形で、為替相場では円安が進行している。今後は円資産の現預金に関しても、先行き価値の低下リスクが焦点になる。

    国内のインフレに関しては、内閣府による昨年12月の消費動向調査(2人以上の世帯)のうち、1年後の物価見通しで「上昇する(+5%以上)」との回答割合が30.7%となった(11月は29.7%)。昨年3月の12.8%をボトムに増加へと転じ、2014年2月以来、約8年ぶりの高水準になっている。「上昇する(+2%以上、+5%未満)」も36.3%となり(11月は35.2%)、2019年や2013−2015年以来の高水準となってきた。
    2014年の場合、インフレ上昇見通しのほか、アベノミクスや日銀緩和の効果などもあって、個人の株式資産は増加となっていた。日銀の資金循環によると、家計資産のうちの「上場株式」は前年比で2014年4−6月の+5.1兆円から、2015年4−6月には+17.4兆円の増加となっている。連動する形で日経平均株価も前年比変化幅(四半期中の高値比較)で、2015年4−6月には+5510円幅の上昇が観測されている。

    もちろん、株価の上昇により、家計の株式資産が時価ベースで底上げされた側面もある。それでも同時期に家計の「現金・預金」は、2013年10−12月の前年比+20.9兆円から2016年4−6月には+12.4兆円とプラス幅が減少。部分的な現預金から株式への資金シフトが示唆されている。家計の資産合計に占める株式の比率は、その前後で5.2%から6.0%へと拡大している。

    過去の「現預金減」と「株式資産増」の局面では、日経平均が四半期ベースの前年同期比で2018年に+4461円幅、2006年に+5651円幅、2000年に+4372円幅といった株高実績が見られてきた。昨年2021年の高値は、2万9000円から3万円の前後となっている。今年は単純に前年比+3000円幅から+4000円幅の上昇としても3万3000円から3万4000円方向の株高余地は可能性として無視できない。

    現在の場合、2020年からの株高を受けた資産効果もあり、すでに株式資産の比率は2020年1−3月の5.1%をボトムとして、2021年7−9月には6.8%に拡大してきた。それでも過去には2005−2006年にかけて+7.0%から+7.6%といった拡大実績があり、比率拡大の余地は残されている。

    しかも現在は家計の金融資産合計自体がコロナ危機以降、政府給付金や消費抑制、現預金滞留、株高効果などにより、改めて増加となってきた。2020年1−3月の1816.6兆円から2021年7−9月には1999.8兆円と過去最高を更新している。同期間に+183兆円の増加となっているが、過度な安全逃避の後退もあり、そうした増加分の部分的な株式配分が注目されやすい。

    資産としての日本株の信認についても、1990年代以降の長期低迷や投資家の損失打撃、長期不信が是正されつつある。良くも悪くもながら、2012年以降は日銀による超金融緩和のカサ上げ効果もあって、日経平均株価の年間成績は10年のうち9年(9回)がプラスになるという信用の改善が見られている。2012年−2021年の10年における年初のスタート値から年末の終値比較、あるいは年末時の前年末比では、2018年を除いて全てプラス化というトラッキング・レコードが確立されてきた。

  • 今年の日本株は後半大きく巻き返すかもしれない
    前半は日経平均もNYダウも冴えない展開に?
    馬渕 治好 : ブーケ・ド・フルーレット代表、米国CFA協会認定証券アナリスト 2022年01月04日

    あけましておめでとうございます。本年も当コラムのご愛読のほど、何とぞよろしくお願い申し上げます。

    さて、結論から言うと、2022年の世界株価の見通しはこれまでとまったく変わらない。年前半は世界的な株価下落(とともに外貨の対円相場も軟化=円高基調)を予想する一方、年央から年末にかけては世界的な株価の回復を見込む。

    「6頭の熊」がいよいよ顕在化
    年前半に株価下落を想定する背景は、以前「2022年に株価を下げる『6頭の熊たち』に注意せよ」で挙げたように、「6つの株価下落要因」が顕在化することだ。それを簡略化して再掲すると、下記のとおりだ。

    (1) アメリカにおけるテーパリング(量的緩和の縮小)が進展し、大幅な金融緩和を前提としてきた企業や投資家の行動が逆回転する。

    (2) アメリカの量的緩和の拡大スピードが落ちることが、新興国の政府や企業の資金調達を困難にする。並行して、新興国通貨の対ドルでの相場下落が加速する。

    (3) 中国に関する多数のリスクが懸念される。具体的には同国の景気減速、「共同富裕」を掲げての突然の産業規制、巨額の民間非金融部門の債務問題、さらには米中の安全保障や人権問題をめぐる対立の先鋭化などが挙げられる。

    (4) 日米欧などのマクロ経済指標や企業収益は増勢ながらも、伸びは鈍化している。

    (5)アメリカなどの諸国で、トラック運輸・海運・港湾などの人手不足が品不足傾向を持続させるおそれがある。

    (6)4月のフランス大統領選の結果に対する不透明感もあって、EU(欧州連合)の求心力に疑念が生じうる。ロシアによるウクライナ侵攻の懸念もある。

    上記の熊のうち、市場への影響力がより大きなものは(1)~(3)だと考える。(4)~(6)が、それ単独で世界市場を波乱に陥れるとは見込みにくい。だが、それぞれがほぼ同時に発現することで、世界株価の動揺は大きなものとなりうる。

    年央の株価メドとしては、日経平均株価が2万5000円、ニューヨーク(NY)ダウ工業株30種平均が3万ドル程度だと想定している。ただし、これは何らかの投資尺度などで算出したものではない。極めて大まかなメドにすぎず、おそらく実際の今年の安値はこれよりもかなりズレるだろう。

    それでも上記の安値近辺までの下落となれば、日経平均は2021年の最高値(終値ベース)の3万0670円(9月)から約18%下、NYダウも同様に3万6488ドル(12月)からやはり約18%下にすぎず、それほど大した下落とは言いがたい。

    年央以降の反転上昇のきっかけは何か
    では、2022年央から年末にかけて、主要国の株価の反転上昇を予想している理由は何であろうか。これは、年前半の株価の下押しが十分に進めば、その後は長期的に見た世界経済の拡大基調に沿った、株価上昇の長い流れに復する、と考えていることが大きい。

    アメリカなどにおいて、これまでの金融緩和の環境で生き残ってきた脆弱な企業や投資家が年前半に淘汰されれば、波乱を生き延びた企業や投資家は強靭なものであり、それらが景気や市場を支えそうだ。

    また、アメリカの株価下落が個人や企業の心理を悪化させ、起債などの困難化から企業の資金繰り破綻のリスクを高め、実体経済が著しく悪化するといった可能性が高まれば、連銀がテーパリングや利上げの過程にあればその停止、あるいは再緩和に踏み出す展開もありうる。

    「アメリカの株価が下落する『前に』連銀がテーパリングを中止するなどで株価がまったく下げずに済む、ということはあるのか」というご質問もよくいただく。

    だが、もしそうした「株価の救済役」を連銀が買って出れば、株式市場が連銀への依存心を高めすぎてしまい好ましくない、と連銀は考えるだろう。逆に、アメリカの株価が下落し、同国の経済などに対する悪影響が懸念され始めた「あとで」、連銀が対応策を繰り出し、それをきっかけに株価が反転上昇に向かう、ということはありうると考えている。

    さて、2021年も結局は日本株がほかの主要国株に対して劣後する展開となった。2021年の主要先進国の株価指数上昇率を見ると、フランスCAC40が29%、アメリカS&P500が27%、ドイツDAXが16%、イギリスFT100が14%だ。それに対してTOPIXは10%の上昇と劣後し、日経平均に至っては5%にすぎない。

    世界の株価指数で騰落率ランキングをとると、日経平均はワースト10位となっている(世界の50指数の騰落率ランキングによる)。

    日本株停滞の構造は変わらず
    前回のコラム「日本株が低迷しているのは岸田首相のせいなのか」で、こうした日本株の不振は「岸田政権のせいだ」とばかりは言えず、むしろ日本企業の収益性の低さと、その背景にある日本企業の経営や組織の問題などが要因だろう、と述べた。

    例えば、日本の企業経営(すべての日本企業がそうだとはいわないが)を眺めると、これまでと同じことをだらだらと進めているだけで、時代や技術の変化についていくことができず(もともと変化についていこうという覇気も乏しく)、新しい挑戦を行うこともせず、衰退の道をたどっているように見える。そうして企業が売上高を大いに増やすことができなければ、労働者に渡す報酬の原資も増えず、それが個人消費も圧迫してしまう。

    「思い切ってリスクをとって新しいことに挑戦してみよう、それで失敗したらまたやればいいではないか」という気概が、企業経営のみならず、企業組織にも、管理職にも社員にも、さらには企業の外側を見ても国民全体にも乏しすぎる。

    また日本社会としても、挑戦して失敗した人を無謀だと冷笑し、逆に大いにリスクをとって巨額の収入を得た人をねたむ、という風潮が強いように感じる。ほかの人と変わった尖ったことに、個人でも企業内でも挑戦しようとすれば「周囲と同調せよ、空気を読め」という圧力も依然強い。

    金融面に話を限っても、リスクを取る個人や新興企業に、融資も投資も行われにくいといった状況がなお指摘できる。こうした諸問題の背景には、教育のあり方もかかわっているのだろう。

    海外投資家から、「日本においては、アメリカのGAFAMのように、ベンチャーから巨大になった企業が現れ、それが世界を牽引する大企業になるということは、昔のホンダやソニーならともかく、今は無理だよね」との声を多く聞く。そうした日本の構造的な劣後が、結局、日本株の劣後に表れていると解釈できるだろう。

    しかし、世界的に株価の持ち直しが期待される今年後半は、日本株の上昇率がアメリカなどほかの主要国を上回る可能性があると見込んでいる。その背景は、次の2つだ。

    なぜ今年後半は日本株に「期待」できるのか
    (1)日本株がエマージング、あるいはマージナルになっているため

    実は海外投資家からは「日本株はエマージングだ」と言われることが多い。つまり、日本は形こそ先進国かもしれないが、株式市場については、海外投資家が買えば上がり、海外投資家が売れば下がるといった体たらくで、「まるで新興国の株式市場のようだ」と揶揄されているわけだ。

    また、日本の株式市場は世界の株式市場の「核」「中心」ではなく、「へり」(マージン)である、とも言われている。

    世界の株式市場の核といえば、やはりアメリカ株だ。世界的に株式投資に逆境となる事態となれば、当然アメリカ株も売られるが、核であるアメリカ株の保有額を極度に減らすということは想定しがたい。

    それに対して、日本株がマージナルだと世界の投資家に認識されていれば、世界的に株式への資金配分を減らそうということになると、日本株は大いに売られてしまう可能性があるといえる。

    逆に株式投資を増やそうという局面では、その前に大幅に日本株の保有を減らした分だけ、グローバルな投資家の日本株の保有額が高率で増加することになりやすい。

    (2)日本経済が「世界景気敏感」であるため

    日本では「世界トップクラスのグローバル企業」に値する企業は製造業に多い。その中でも、設備機械(工作機械、産業用ロボット、半導体製造装置、一般の産業機械、建設機械など)や、それを支える機械部品、電子部品などの分野が主力といえる。

    こうした企業向けの機械類や部品類は、世界の設備投資や建設投資の動向に収益が左右される。設備投資・建設投資は、企業経営者の業況感の浮沈によって増減するため、世界の実体経済の振れ以上に大きく増えたり減ったりする傾向が強い(対して、個人消費は比較的安定して推移する)。したがって、日本経済の景況の上下動が世界経済より大きくなる。

    ということは、2022年後半に世界市場が持ち直し「実体経済も堅調に推移するだろう」との業況感が世界企業の間で広がると、企業の設備投資や建設投資が大きな回復をみせ、日本の機械類への需要が大幅に挽回して、世界の投資家が日本企業の製造業中心の収益回復を期待するものと予想できる。これが、年後半の日本の株価上昇を大きくするだろう。

  • 中国、入国規制を年内継続とゴールドマン-重要イベントめじろ押し
    1/4(火) 16:09配信

    (ブルームバーグ): 中国が2022年末まで新型コロナウイルス対策として入国規制を続ける可能性があると、ゴールドマン・サックス・グループはみている。北京冬季五輪や5年に1度の共産党大会など一連の政治イベントを控えているためだ。

    同社のアンドルー・ティルトン氏らアナリストは4日のリポートで、中国の科興控股生物技術(シノバック・バイオテック)が開発したワクチンはオミクロン変異株に対して限定的な効果しかないとの報道が中国にコロナを一切容認しない「ゼロコロナ政策」を堅持させるよう強いる公算が大きいと指摘した。

    シノバック追加接種、オミクロン株に十分な抗体得られず-香港

    ゴールドマンによれば、北京で来月開催される冬季五輪や3月の全国人民代表大会(全人代)、10-12月(第4四半期)に開かれる第20回共産党大会に影響し得る大きな混乱を避けるため、入国者に課している隔離要件が維持される可能性がある。

    金融政策を巡っては、1-3月(第1四半期)に市中銀行の預金準備率が再び引き下げられるとゴールドマンは予想。与信・財政措置が緩和されるものの、不動産市場の下振れを完全に吸収するには至らないとの見通しも示した。また、中国は「意味のある」経常黒字を維持しており、人民元が年末までに1ドル=6.2元に上昇し得るとも予測した。

    原題:Goldman Says China Could Keep Border Restrictions Through 2022(抜粋)

    (c)2022 Bloomberg L.P.

  • ビル・ゲイツは「先進国は100%人工肉に移行すべき」とまで発言…日本は“脱炭素シフト”をチャンスに変えられるか
    1/4(火) 6:12配信

     誰も知らない「大逆転」が日本でも密かに起きかけていた。

     2021年9月14日、東証一部上場の再生可能エネルギーベンチャー、レノバの時価総額が、日本最大の電力会社である東京電力ホールディングスを抜く寸前まで接近した。東電HDの約4853億円に対し、レノバは約4797億円、わずか50億円強の差まで迫ったのだ。

     2000年創業のレノバは、社員数がわずか238人なのに対し、東電は連結で100倍以上の3万7891人。発電規模でも、レノバの発電容量が建設中を含め98・2万キロワット、東電の発電容量は約7700万キロワットと、こちらも2ケタの差があることを考えると、この2社の市場価値が拮抗していることの驚きが伝わりやすいかもしれない。

     これは世界で起きている「グリーン・ジャイアント」の急激な台頭が、日本にも到来したという意味で、極めて象徴的な出来事といえる。欧米では2020年以降、それまで名も知られていなかったような再エネ企業が、20世紀に君臨した石油会社など超大手企業を時価総額で抜き去る事態が次々発生した。

    世界のマネーの動きが急変した
     ネクステラ(米)、オーステッド(デンマーク)といった欧米企業は、まだ再エネが「代替エネルギー」に過ぎないとされていた10年以上前からそのポテンシャルを確信し、ビジネスを抜本的にシフトさせてきた。ようやく時代が追いつき、今や本流となった地殻変動は、拙著 『グリーン・ジャイアント』(文春新書) で詳細に記した。

     この背景には、新型コロナウイルス感染症による経済の停滞に加え、「気候危機」をめぐるナラティブ(物語)の共有が急激に進んだことで、世界のマネーの動きが一気に変わっていることがある。

     日本でも2020年、当時の菅義偉首相が2050年までのカーボンニュートラル(CO2排出実質ゼロ)を宣言した前後から、脱炭素という言葉を耳にすることも多くなったはずだが、実は、この5年で気候変動を前提にビジネスのルールは大きく書き換えられ始めている。

     特に2021年は、米国で気候変動自体を否定していたトランプ前大統領からバイデン大統領へと政権が移ったことで、気候をめぐる世界の議論は加速度を増した。米国は政権が変わるとすぐにパリ協定に復帰し、4月にはバイデン氏主催の気候サミットで、2050年カーボンニュートラルに加え、2030年までの排出量50%減(2005年比)を打ち出すなど、一気に気候変動対策のリーダーへと名乗り出ようとしている。

    EUが「国境炭素税」の本格導入へ
     脱炭素のインフラ整備を軸とする「米国雇用計画」に5年で100兆円以上をつぎ込み、さらには気候変動対策を盛り込んだ10年約380兆円の予算決議案をぶち上げるなど、怒濤の勢いで巨額の資金を投入し始めたのだ。

     一方、EU(欧州連合)は2035年までのガソリン車の新車販売禁止に踏み切ったほか、域外からの炭素含有量の多い輸入品に対する「国境炭素税」の本格導入へと準備を進めている。

     極めつけは、2021年9月の国連総会で、中国・習近平主席が、海外での新たな石炭火力発電プロジェクトへの支援を停止すると発表したことだ。中国は世界一のCO2排出大国だが、2060年までのカーボンニュートラルの宣言に続くサプライズ発表で、気候分野では国際社会への歩み寄りを見せている。

     11月のCOP26(国連気候変動枠組条約第26回締約国会議)開催も含め、2021年は気候変動対策が一つのピークに達した年として記憶されるかもしれない。

    日本の生き残る道は?
     日本も5月に改正地球温暖化対策推進法が可決されるなど、世界と足並みを揃え始めたが、特に産業分野での大きなシフトには対応しきれていないのが現状だ。日本が強みを持つテクノロジーは、ハイブリッド車や高効率の石炭火力など、化石燃料の「省エネ」に優れるものであり、電気自動車(EV)や再エネなど「排出量ゼロ」を前提に欧州が先導して進めるルールには、そのままでは適合できない。

     国内では「欧米が自国優先のルールを作っているに過ぎない」といった不満を聞くことも少なくないが、すでにESG(環境・社会・企業統治)投資など、金融市場のルールもシフトし始めており、気候変動への対応を怠ることは経営面での一大リスクになり始めている。

     一方で、冒頭のレノバのように、いち早く世界の潮流に気づき、新たな取組を始めた企業にはそれだけのマネーが集まるようになった。つまり、気候変動はリスクをもたらすだけでもなく、その裏側で大きなチャンスも生み出しているということだ。

     世界ではすでに、冒頭のグリーン・ジャイアントや米テスラのようなEV企業だけでなく、あらゆる分野で脱炭素の文脈で飛躍を遂げる企業が出始めている。特に顕著なのは、ゲップやおならを通じて温室効果の高いメタンガスを排出する牛を代替する食産業の台頭だ。

    2022年は試金石の年
     2021年はオーツ麦の「ミルク」を手掛けるオートリー(スウェーデン)が上場し1兆円近い時価総額を維持するほか、「植物肉」のインポッシブル・フーズ(米)も近々上場するとみられている。ビル・ゲイツは「植物肉はすでに味もコストも競争力がある。最貧国のことを考えると、将来的には先進国は100%人工肉に移行すべき」とまで発言している。

     しかし、日本では、こうした脱炭素シフトをチャンスに変えている企業の事例はまだまだ少ない。今や、エネルギー産業や自動車だけでなく、農業、鉄鋼にセメントまで、ありとあらゆる産業で抜本的なCO2削減が求められている中、企業が変革を進めるのは遅すぎることはあっても、早すぎることはない。2022年は日本からどれだけグリーン・ジャイアントが登場するかの試金石の年となりそうだ。

    ※本稿が執筆されたのは2021年10月です。

    ◆このコラムは、政治、経済からスポーツや芸能まで、世の中の事象を幅広く網羅した『 文藝春秋オピニオン 2022年の論点100 』に掲載されています。

    森川 潤/ノンフィクション出版

  • 50年ぶりの経済危機が米国を襲う?元ゴールドマンFMが「2022年の世界経済」を解説
    1/3(月) 8:46配信

     景気回復と株高は続くのか? かつてゴールドマン・サックスで2000億円運用していた凄腕ファンドマネジャー(FM)にして、フィンテック系ベンチャー「クリプタクト」共同創業者のアミン・アズムデ氏(@aminimaz)が2022年の世界経済を大予測。米国の動向から日本株、原油相場まで占ってもらった本企画。今回はアメリカ経済編。

    金融緩和の縮小と11月の中間選挙
     2021年11月、米国で起きた2つのことが大きな注目を集めた。1つはFOMC(米連邦公開市場委員会)がテーパリング(金融緩和の縮小)を決定したこと。金融引き締めに向けた一歩が、株式市場の歩みを止めるリスクについて投資家は意識するようになったのだ。

     もう1つはバージニア州知事選挙だ。同州は民主党の牙城と言われる「ブルーステート」。バイデン氏も2020年の大統領選時にはトランプ氏に10ポイントの差をつけて勝利したが、その1年足らずの間に実施された州知事選で共和党候補が勝利。

     それも、トランプ支持を強烈に訴える共和党の黒人女性も同州副知事選に勝利するというおまけつきだった。2022年の中間選挙を前に、共和党および“トランプ派”が勢いづいたのは間違いない。

    カギを握るのはインフレの行方
    10月の消費者物価指数が前年同月比6%の大台を突破して、インフレが加速していることを示唆。その影響で、長期金利は再び上昇中

     これらが金融市場に与える影響はあるのか? 2017年までゴールドマン・サックス証券で2000億円もの資金運用に携わっていたアミン・アズムデ氏はこう話す。

    「FED(米連邦準備制度)の金融政策も、米中間選挙もカギを握るのはインフレの行方です」

     グローバルなお金の流れを知り尽くす投資のプロ中のプロは目下、米国のインフレ圧力を注視しているというのだ。

    「10月の米CPI(消費者物価指数)は31年ぶりの高水準となる前年同月比6.2%の上昇。インフレの進展から市場は2022年に1、2回の利上げを織り込んでいますが、パウエルFRB(連邦準備制度理事会)議長は『一時的』の定義を曖昧にしたまま『インフレは一時的』と繰り返すばかり。11月のFOMC後の会見は印象的でした」

    このままなら2022年の利上げは確定的
    アミン・アズムデ氏

     11月3日、市場の織り込みは間違えているのか? と問われたパウエル議長は、一瞬口ごもると手元の資料を棒読みし始めた。

    「何度も『um』『eh』とためらいながら苦しげな読み方でした。『市場が間違えている』と言えばさらなるインフレを容認するように受け取られかねないし、『市場が正しい』と言えば株の急落を招きかねない。その苦悩が言葉にならない声として漏れていた。今の市場はFEDの政策判断ミスを織り込んだ状態にあるんです」

     だが、FOMC後の10日に発表された前出CPIでは「一時的」どころか、インフレが加速していることが明らかに。アミン氏は「想像以上のインフレが足元で進んでいるため、このままなら2022年の利上げは確定的」と話す。

    支持率急降下中のバイデン
    8月のアフガン撤退で批判を浴び、足元のガソリン高の影響もあって支持率が急降下しているバイデン政権。過去のトランプ氏に肉薄する可能性も

     実は、インフレに頭を悩ませているのは、中間選挙を控えたバイデン大統領も一緒だ。

    「インフレはバイデン大統領の支持率にも影響しています。WTI原油先物価格は7年ぶりの高値水準に達し、ガソリン価格が急騰しているからです。クルマ社会のアメリカではガソリン高騰は支持率低下に直結します。すでにバイデン氏の支持率はワースト2位の水準まで低下中。下にはもうトランプさんしかいません(笑)」

     8月の無様なアフガン撤退による支持率低下に、インフレ圧力が追い打ちをかけた格好だ。

    「民主党はインフラ投資に、社会保障の拡充、突出して高い薬価の改定、大学生の奨学金ローン返済免除、富裕層増税などさまざまな課題を掲げていますが、ほとんど実現できていません。それどころか、バイデン政権の最重要課題のひとつである地球温暖化対策が原油生産投資を抑制して原油高を助長していると批判を浴び、中国やロシアとの対立を深めている。その影響は後々、市場に現れるでしょう」

     11月にも米議員団が台湾を訪問。蔡英文総統が訓練目的での米軍の台湾駐留を認めたこともあって、米中の対立は深刻化している。

    「バイデン政権は中間選挙を控え、弱腰な姿勢は見せられない。米中冷戦は市場の大きな不安要素です」

    米国のインフレは“一時的”でない?
    CPIの3~4割を占める帰属家賃は住宅価格指数から12か月遅れて綺麗に反応する傾向がある。少なくとも向こう1年のインフレは濃厚か

     果たして米国のインフレに歯止めはかかるのか?

    「CPIの3~4割を占めるのが『Shelter(帰属家賃)』ですが、これは住宅価格(ケース&シラー指数)に対して12か月遅れで反応する傾向があります。その住宅価格は右肩上がりを続けているため、2022年の今頃までShelterが上昇を続け、CPIを押し上げる可能性が高い。つまり、インフレはまだまだ続く」

    50年ぶりのスタグフレーションの可能性

     アミン氏が懸念するのはインフレと景気後退が同時進行する「スタグフレーション」だ。

    「コロナ対策では総額4.8兆ドルがバラまかれました。バイデン政権はインフラ投資法案などを進めていますが、その規模は5~10年で総額1兆ドルにすぎません。さらにバイデン政権は富裕層への増税を検討しています。増税と財政支出削減の組み合わせはGDPを押し下げる要因となる。インフレと景気後退により、アメリカ経済を50年ぶりのスタグフレーションが襲う可能性があります」

     インフレ抑制に失敗するようなら米株安が世界に波及するのも必至。金融政策ミスと景気後退が重なれば、2022年は米国発のスタグフレーション・ショックが顕在化する年になりかねない。

    【まとめ】
    ・物価上昇は一時的にあらず。2022年の利上げが濃厚か
    ・11月の中間選挙をも大きく左右するインフレの動向に注目

    <取材・文/¥SPA!編集部 図版/ミューズグラフィック>

    【アミン・アズムデ】
    クリプタクト代表取締役。2004年にGS入社した後、ファンドマネジャーとして活躍。退職後、同僚と投資SNSや仮想通貨損益計算サービスを提供するクリプタクトを創業。共著『ゴールドマン・サックスで2000億円を運用していた機関投資家が教えるプロの投資』

    bizSPA!フレッシュ 編集部

  • >>138

    (2)NEXT GAFAMの資格を持つ日本企業群

    ●日本産業の主役交代が急速に進んでいる

     今や日本経済を代表する企業は、経団連や経済同友会などに集う、昭和時代からの銀行、重厚長大産業(鉄鋼・化学・重電・重工)、自動車、電機企業などのエリート企業群ではない。GAFAM(アルファベット<GOOGL>、アマゾン・ドット・コム<AMZN>、メタ・プラットフォームズ<FB>:旧社名フェイスブック、アップル<AAPL>、マイクロソフト<MSFT>)にも対抗できるビジネスモデルを持つ新興大企業が、日本を代表するプレイヤーになっていることは、うれしい驚きである。時価総額ランキングの推移でみると、急激に日本の担い手企業が変わっている。それらは将来、GAFAMにも匹敵する潜在力を持ってくるかもしれない。

     日本は米国と異なり、リーディングカンパニーの新陳代謝が長らく起きなかった。しかし、コロナ危機を挟んだ数年間のうちに、日本の将来を託するのに十分な資格を持つ企業群が台頭している。

     武者リサーチが勝手に(恣意的に)格付けしたNEXT GAFAM時代の日本のリーディング企業をみると、2015年までは時価総額上位20社中2社程度であったものが、2021年12月末では12社(ソニーグループ <6758> 、キーエンス <6861> 、リクルートホールディングス <6098> 、東京エレクトロン <8035> 、ソフトバンクグループ <9984> 、信越化学工業 <4063> 、日本電産 <6594> 、ダイキン工業 <6367> 、任天堂 <7974> 、ファーストリテイリング <9983> 、HOYA <7741> 、村田製作所 <6981> )と急増していることがわかる。

     旧態依然たる大企業の停滞・没落と新興中堅企業の台頭という図式は10数年前から進行し、それはTOPIXの規模別株価パフォーマンスに如実に表れていた。その花形役者の交代がいよいよ、ひのき舞台で起きつつあるのである。

    ●GAFAMの既存ビジネスは収穫逓増期から収穫逓減期への過渡期にある

     いま世界ではGAFAMが飛ぶ鳥をも落とす勢いで繁栄し、米国株価もそれにより突出したパフォーマンスを続けている。それはGAFAMが支配するインターネットプラットフォーム産業が収穫逓増期にあるからである。

     商品や産業は、1.収穫逓増期、2.収穫逓減期、3.衰退期、4.安定期(or絶滅期)というライフサイクルを持っている。

     これをビールの飲酒量と効用の関係で考えてみよう。最初のミニグラスでは到底満足できないが、大ジョッキで一気に乾いたのどを潤す時に大いなる満足が得られる。ここまでが収穫逓増期であり、飲めば飲むほど、最初の一杯よりも次の一杯の方が大きな満足が得られる。しかし、さらに飲み進めると、徐々に快感が薄れる限界収穫逓減期に入る。そして、さらに飲み進むと悪酔いが始まり、快感は不快感に変わり、ついにはビールを飲むことを止める、これが減衰期である。

     農業の歴史を振り返ると、原始採集経済段階にあった人類が、農耕を始め飛躍的に生産力を高めた紀元前4000年以降、日本では紀元後200年頃が収穫逓増期であり、超過リターンが人口増と、ピラミッド・古墳などの巨大構築物をもたらした。しかし、古典派経済学が農業を分析の対象にした中世末期、近代初期には収穫逓減期に入り、産業革命とともに衰退期に入り、いまようやく安定期に入っている。

    ●次のフロンティアを模索するGAFAM

     インターネットが一般に普及して20数年が経過した。この間、米国にはグーグルやアップル、フェイスブック(メタ)、アマゾンといった超巨大ハイテク企業が誕生し、米国の株式市場は我が世の春を謳歌してきた。しかし、その勢いもいよいよ鈍化する時期に入りつつあるのではないか。収穫逓増の時期を過ぎ、収穫逓減期に入っていくものと思われる。たとえば、音楽や動画ストリーミングのジャンルでは多くの企業が参入して価格競争が起こり、収益性が悪化している。

     GAFAMはインターネットとサイバーの世界で多くの利便性を開拓して圧倒的ユーザーを獲得し、その独占的強みを活用してさまざまな外部のコンテンツメーカーを支配してきた。しかし、スマホの新モデルに追加される新機能に対する驚きは小さくなってきた。機能の差がなくなったスマホメーカーが競争して価格が下がっていく時代に入り、プラットフォーマーの役割はさまざまなコンテンツを右から左に流すだけの単なる土管になっていくものと思われる。今後、付加価値を生み出すのは、土管ではなく、その土管を通して提供されるコンテンツになっていくのではないか。

     また、GAFAMなどの巨大なプラットフォーマーは、独占性を利用してネットアプリプロバイダーやコンテンツメーカーを支配し買収しコングロマリット化しているが、いずれ独占禁止法違反に問われるかも知れない。

     フェイスブックが社名をメタに変更し、 メタバースと呼ばれる仮想空間の開発を強化する方針を打ち出した。現在のプラットフォームビジネスが収益的に厳しくなる恐れが強まってきたなかで、新しい収益源を、さらなるバーチャルの世界に求めたのである。しかし、メタバースのような仮想空間はより臨場感を高めるだろうが、これまでほどの熱狂を生み出すだろうか。メタバースには膨大なデータ処理のためのコストが必要なるが、コストパフォーマンスは低下していくのではないだろうか。

     サイバーの世界のもう一つの新しいフロンティアが、仮想通貨などブロックチェーンの世界であるが、それはデータの分散管理であり、プラットフォーマーが支配しにくい領域である。

    ●次のフロンティア、(I)サイバーとフィジカルの統合(cyber physical interface)

     むしろ、これから注目されるフロンティアは、サイバーの世界の深掘りではなく、現実社会における課題解決に向けて、ハイテクをどう活かしていくか、であろう。

     いま進行するIoTは、モノがネットワークでつながるということであり、まさにサイバーと現実との融合そのものである。「SoftBank World2021」でソフトバンクグループ会長兼社長の孫正義氏が「スマボの時代がやってくる」というテーマの基調講演を行った。AI(人工知能)で自ら学習し、柔軟に、臨機応変に動くロボットのことを「スマボ」、つまりスマートロボットと言っているのだが、このスマボを1億台、日本に導入すれば、労働人口にして10億人相当の国に生まれ変わる。少子超高齢社会で労働人口が減少している日本の社会課題の解決に直結する、と主張する。

     そして、このスマボに必要な要素技術は、スマボの目となる各種センサーと、スムーズな動作を可能にするアクチュエーターである。これらの要素技術において日本は世界最強のプレイヤーを擁している。 センサーの覇者ともいうべきキーエンス(日本株式時価総額ランキング3位)、世界一の高性能モーターを製造している日本電産(同10位)、高性能部品の村田製作所(同19位)、半導体製造装置の東京エレクトロン(同6位)、半導体ウエハーの信越化学(同8位)、光学ガラスのニッチトップ企業のHOYA(同17位)などは、サイバーとフィジカルを組み合わせた「サイバー・フィジカル・インターフェース」時代の世界トップクラスのプレイヤーである。

    ●次のフロンティア、(Ⅱ)コンテンツ

     GAFAMが提供する土管が安くなっていくと、それによって運ばれるコンテンツが価値創造の主体になる。ソニーグループ(同2位)はGAFAMと一線を画すコンテンツにフォーカスした世界最大の企業ではないか。「感動を届ける」ことを企業理念としてうたい、映画・映像、音楽、 ゲームなどで世界最強の基盤を整えている。任天堂(同15位)もゲームコンテンツに特化した世界的プレイヤーである。

    ●世界最強の資本家、孫正義氏

     そのほかでは、日本が擁する情報革命時代の世界最強の資本家孫正義氏のソフトバンクグループ(同7位)、アパレルの革命児、柳井氏率いるファーストリテイリング(同16位)、フェイスブックが登場するよりもはるか前から出会いを仲立ちするマッチングビジネスを極め続けてきたリクルートホールディングス(同4位)、環境では「空気で答えを出す会社」を標榜するダイキン工業(同12位)など、NEXT GAFAMの資格を持つビジネスモデルを確立したグローバルプレイヤーが揃っている。

     高い成長が期待できる各分野で世界トップシェアを持つ日本企業は、すでに勢ぞろいしているのである。これらが正当に評価され、悲観ムードが一掃されることで、異常に割安の日本の株式市場は大きく変化していくものと期待される。

    (2021年1月1日記 武者リサーチ「ストラテジーブレティン297号」を転載)

  • 【特集】武者陵司「2022年の市場展望」(前編) <新春特別企画>
    武者陵司(株式会社武者リサーチ代表)

    ―NEXT GAFAMを担う日本企業のビジネスモデルに注目せよ―

     2021年もハイテク敗戦、グリーン敗戦、金融敗戦、コロナ敗戦と自虐思考のオンパレードであった。ここまでくれば悲観も陰の極ではないか。敗戦はすべて過去に起こったこと、あるいは過去に蒔かれたマイナスの種が影響を残したことにすぎず、将来も敗け続けるということでは全くない。

     過去を振り返ると、日本の最悪期はだいぶ前であったことがわかる。日本株(日経平均株価)のバブル後最安値は2009年3月10日の7054円、直近の高値は2021年9月14日の3万0795円、この12年間で日本の株価は4.37倍(年率13.1%)になった。

     このパフォーマンスは、米国を除けば世界の優等生。日本が本当に世界に劣後していたのはアベノミクスが始まる8年前までで、以降は着実なキャッチアップの過程に入っている。それは日本企業のビジネスモデルの大いなる変革と企業収益の飛躍的向上に支えられている。企業における価値創造こそが将来を形作る最も重要な要素であるから、このペースの株価成長が維持される可能性は大きい。となれば、10年後の2031年には日経平均は10万円になる。

     なぜ日本において、企業による価値創造が期待できるのか、以下で考えてみる。

     悲観論者と楽観論者で財産形成に極端な格差ができている。格差を非難する株式投資批判者は、政治や体制を糾弾するのではなく、自らの不明を反省するべきである。

    (1) 2022年の市場展望を楽観するべき理由

     2022年、経済と市場は引き続き明るい年になるだろう。第1に、グローバル投資環境は良好である。第2に、日本株の再評価が始まり、バリュエーションが向上するかもしれない。

     市場を巡る不確実性が大方消えてきた。米中対立は依然として熾烈だが、経済面では持久戦の様相が強まり不透明感は消えつつある。また、コロナパンデミックも、オミクロンなど変異種の相次ぐ誕生から制圧には至らないが、経済への悪影響は減衰している。イノベーションの加速と市場フレンドリーな金融政策の下で、積極的な投資姿勢を堅持するべきである。米国中間選挙、フランス、韓国の大統領選挙などの政治的イベントも大きな攪乱要因にはなりにくい。中国での政変(?)、韓国大統領選での保守党候補勝利による日韓宥和などのサプライズがあればむしろポジティブなものになる可能性が強い。日経平均2万8500~3万5000円、NYダウ工業株3万5000~4万ドル、米長期金利1.25~1.90%、ドル円113~123円、と見ている。

     個人資金のETF(上場投資信託)を通した市場流入が増加しており、インデックス主導、先物主導の市場構造は一段と強まっている。そのため、ボラティリティの高まりには注意が必要であろう。年央のどこかで一定の株価調整を想定するべきかもしれない。

    ●米国金融引き締めの悪影響は心配するに及ばず

     米国の金融引き締めに過度の心配は不要であろう。市場ではいつになく警戒感が強いので、意外に底堅い展開の年になるかもしれない。(1)インフレが一時的であること、(2)長期的金利低下の趨勢が続くことが要因。自然利子率低下はさらなる株高、バリュエーションの上昇余地があることを示唆する。「TINA(There is no alternative:株以外に投資対象がない)」という状況は2022年も続く。市場フレンドリーな金融政策不変・マイルドインフレ・マイルド金利上昇の下で、リスクテイクが報われる環境が続くと考えられる。

    ●日本株式、2021年は年初に3万円を付けた後もしっかり

     2021年の日本株式は意外にしっかりしていた。これまでの日本株の2大買い主体であった日銀と外国人の支援が全く止まったにもかかわらず、前年比でプラスが維持された。(A) 日銀がETF購入をほぼ停止したこと、(B)MSCI日本株採用銘柄減の影響もあり、外国人が日本株を売り越したこと、(C)指数に影響力が大きいソフトバンクグループ <9984> (7%の影響力)の大幅減益(アリババの株価急落により2020年度の5兆円から3兆円以下に)などの悪材料にもかかわらず、バブル後最高値3万0795円からの調整は小幅であった。底流に相場体温の上昇があったことをうかがわせる。2022年はこれらの悪材料が一巡する。

    ●新プレイヤーと新投資主体(個人の積立投資)が日本株の魅力度を高める

     2022年に日本株式が相対的に魅力度を高めるとしたら、その理由として以下4点ほどが指摘できる。

    (a)景気拡大上方修正幅大→コロナでは健康被害最小の日本が、先進国最大の経済被害(経済成長の落ち込み)を被った。コロナ終息による景気のリバウンドは日本が一番大きくなるだろう。IMF(国際通貨基金)などは日本の経済見通しを大幅に上方修正してくるのではないか。

    (b)地政学の順風……円安容認、日本へのハイテククラスター回帰、運命の神が日本に微笑む。

    (c)個人投資家資金の流入などにより株式需給が改善、バリュートラップ脱却(=日本株の割安感是正)が進展していくだろう。

    (d)日本の潜在的優良ビジネスモデルを再評価へ。

     ここで特に説明が必要なのは、(c)と(d)である。

    ●潜在的な株式投資の待機資金は世界最大級、証券投資口座が着実に増加

     日本の家計は全く金利が付かない現預金を1072兆円も保有している。この株式投資の待機資金の大きさは世界最大級である。この資金の一部でも配当だけで2%のリターンがある株式市場に回れば、株価は大きく上昇する。その萌芽は見えつつある。真剣に自分の将来を考えなければならない若者を中心にして、つみたてNISAやiDeCoなどで資産形成を行う動きが、このコロナ禍において目立つようになってきた。証券口座数の増加ペースは速まっている。早晩、個人の株式積立資金が最大の株式買い主体に育っていくだろう。

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