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FX 記録の掲示板

DJ-米国のドイツ批判は見当違い(1)

By Greg Ip

 米財務省は4月29日に発表した外国為替報告書で、為替操作の疑いのある国々に関する監視リストを新たに設
けた。このリストに中国と日本が掲載されたのは驚くに値しない。両国とも輸出を支援するために通貨安を利用
しており、共に輸入については友好的でないことで知られている。

 ただドイツもリストに加えたのは不可解だ。ドイツは独自の通貨を持たずに通貨管理を欧州中央銀行(ECB)
に委ねているので、為替操作はできない。貿易政策は欧州連合(EU)の管轄なので、輸入品をえり好みもできな
い。

 リストに掲載された他の国々と同様に、ドイツは経常収支が大幅に黒字だ。昨年の黒字額は国内総生産(GDP)
比8.5%にあたる3000億ドル近くで、中国と並び世界最大だ。

 経常収支の定義から考えると、この黒字はドイツ国内の消費量が生産量よりも少ないことを意味する。需要不
足は世の中の問題の一つでもある。これを受けてオバマ政権は、ドイツは財政赤字を膨らませず無責任だと結論
づけた。米財務省は報告書で、「ドイツには需要に対し追加支援を与える十分な政策余地がある」と指摘した。


 だが米国は間違っている。ドイツの問題は公的部門にではなく、民間部門にあるのだ。企業はさらに投資する
必要があり、労働者はもっと稼ぐ必要がある。こうした問題は単に財政出動を増やすだけでは解決できない。

 中国の黒字は確かに政府の判断が生み出したものだ。同国の政策は不透明で気まぐれで、近隣諸国に害を及ぼ
すことが多い。工場施設が活用されず安い鉄鋼が国際市場で投げ売りされ始めたことを見れば十分だ。ドイツは
これとは対照的で、規則にこだわり金融支援やECBの債券買い入れ、ギリシャに対する債務減免に反対して、ユ
ーロ圏の同盟諸国をいらだたせている。ECBのドラギ総裁はこれをずばり「何でもノー」だと断じた。

 ドラギ総裁はユーロ圏のインフレ率を2%に回復する取り組みの中で、財政出動の助けを心の底から望んでい
るだろう。問題は、フランスやイタリア、スペインなど財政面からの支援を一番必要とする国々は、そうするに
は債務を抱えすぎていることにある。ドイツはそれが可能だが必要としていない。米国でカリフォルニア州民と
テキサス州民がやっているように、ユーロ圏加盟国が債務と税に対する責任を共有すれば問題はない。だが、ド
イツのメルケル首相が支持している考えだが、ユーロ圏は財政統合にはほど遠い。統合が実現しない限り、ドイ
ツの政治家は単に隣国を助けるためだけに借金することは考えられない。

 ドイツは昨年、GDP比0.7%相当の財政黒字を計上した。今年は、難民受け入れ費用の増加と所得減税で黒字が
解消する見通しだ。国際通貨基金(IMF)は5月初め、ドイツに対して通常の老朽化に追いついていない公共イン
フラへの投資を増やすよう繰り返し求めた。これにより将来の成長は拡大するだろう。ただ、こうしたGDP比1%
の借り入れ拡大で削られる経常収支の黒字はGDP比0.6%にすぎないことも、IMFは認めている。

 実際、財政政策を通じて経常収支の黒字を目に見えて圧縮するには、ドイツが正当化できるよりもはるかに大
幅な財政赤字が必要だろう。ドイツの失業率は東西統一後では最低の4.2%で、潜在成長率を上回る成長を続け
ており、金利がゼロでユーロが弱いことから見ると、財政出動はまったく不要だ。さらに、労働力人口は高齢化
で減りつつあり、債務返済力は低下し今後の年金支出は増えている。ドイツ政府の推定では、出生率と移民が一
定で年金政策が変わらない場合、現在GDP比71%の公的債務は2060年までに同220%に増加する。
(続く)

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