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>>1008

願法堂奇談
アホルダー百物語

「南洋夜話」後編

私の灰色の脳細胞が活性化して、
「それだ! 地殻変動で地下に閉じ込められていた太古の巨獣が地上へ出てきた。あるいは山奥の大蛇が激流で川下へ流されてきた」
「想像力が豊かですね。漫画の読みすぎですか?」
甘木くんは呆れた顔で、
「山の鼠が麓に降りて風土病でも持ち込んだかと思ってるんです。熱病の突発的な劇症で熱さに川へ身投げするのかと。推測の域で、全て説明もできませんが。何にせよ、連中は迷信深いので夜は魔除けも兼ねて気休めに外にランプをかけておきます。このままだと人は居つかず集まらず、いずれ廃業ですね」
窓外を見ると、農園の向こう端に遠くポツンと灯りがこぼれて見えます
結論の出ないまま消灯して、各人、アンペラにくるまりました

眠れぬ私はそっと抜け出しました
ランプが誘蛾灯になっているはずです
灯りを目当てに行くと轟々と鳴る川っぷち…奇妙な生き物が群れをなしていました
狸でもない狐でもない、何万という数で列をなし右往左往、あちこちで渦を巻いて駆け回り、端から川へ飛び込んで行く
あの渦巻きに催眠効果があったものか、私は歩を進めて捕虫網をかまえました
が、振れないのです…誰かが抑えている
「危険です。すぐに離れましょう」
商社員でした、気付いて後を追ってきたんです
引かれるまままず横合いの藪に逃げ込みました
しばらく行ってようやく、
「あれは何です? 知ってるんですか?」
「願宝ですよ。こんなとことで出くわすとは。私は株のコレクターなのです。決してアレには手を出しません」
「大化けしそうに見えました」
「そう見せかけて化かすんですよ。捕っても塩漬けで用がない。朴訥な田舎者が全力で飛びついて、消息不明になる。ゴロゴロいます」
「じゃ、人間消失の犯人は…」
「違いない」
「すぐに甘木くんに知らせないと」
帰りは慣れぬ土地の夜道で迷って大回り、戻ると事務所は灯りがついてドアが開いています
無人でした
監督は後から気付いて慌てて探しに出たんでしょう
もし川へ行ったとしたら…
我々はもう出る元気もなく待つだけ、朝になっても彼は戻りませんでした

日が昇ってから大騒ぎ、パニック状態で小屋から出ない者もいる
我々二人はその日のうちに迎えのボートで島を去りましたから、それからどうなったかは知りません

まあ、あれっきりでしょうね

ほな