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中国激変は「9」の年、動物で警告した習氏の真意

「また10年ごとの(西暦で)末尾『9』の年がやってきた。今回の激変はいったい何か」「習(近平国家)主席が警告した重大なリスクと関係あるのか」「米中閣僚協議前に発表された米当局の華為技術(ファーウェイ)起訴は激変の始まりか」

今、中華世界のネット市民らが噂し合っている。1949年の新中国の建国以来、10年ごとに必ず大事件が起きている。末尾「9」は、激しい変化がある魔の年という例が目立つ。しかも事件の多くは年前半に集中している。

■1989年天安門事件から30年

なかでも1989年6月4日、民主化を求める学生運動への武力鎮圧で多数の死者が出た天安門事件は、国際的な非難を浴びた。ちょうど30年前である。

この「9」が付く年のジンクスと結びつけられているのが、1月21日の異例の習近平演説だ。共産党幹部の研修施設である中央党校には最高指導部メンバーがずらりと並び、全国から集まった幹部が聞き入る様子は異様だった。

共産党機関紙、人民日報も1面トップで重大なリスクの回避を見出しに掲げた。そこで習近平は2つの動物名を挙げて警戒を呼びかけている。

まず常識を覆す想定外の重大事を指す「黒い白鳥」。西欧で長く存在しないと思われていた黒い白鳥(BLACK SWAN)が17世紀末、オーストラリアで発見された強い衝撃に端を発する。そして、明らかな動きがあるのに看過される潜在的リスクを意味する「灰色のサイ」。サイが灰色なのは当然で、おとなしいうちは気にとめない。だが、その巨体が一旦、暴れ出せば誰も手を出せない。

金融・マーケットの世界の専門用語でもある言葉を中国トップが口にしたのは驚きだ。しかも、社会の安定を揺るがすリスクを避ける意味での「闘争」を繰り返し幹部らに指示している。共産党支配の危機と認識せよ、という示唆である。

業界用語まで織り込む異例の発信を進言したのは、いつも習近平に寄り添ってきた経済ブレーンで副首相の劉鶴かもしれない。その劉鶴は30日からワシントンで始まる米中閣僚級協議への出席を予定している。

  • >>417

    習演説を耳にした市民らは、抽象的にしか言及されなかった深刻なリスクの中身に思い走らせている。まずは米中経済・貿易、技術覇権戦争。米司法省は28日、華為技術(ファーウェイ)本社と米国子会社、関連企業のスカイコム・テック、創業者の娘でCFOの孟晩舟を起訴。カナダに孟晩舟の身柄引き渡しを求めている。これで米中閣僚協議の行方はさらに不透明になった。

    そして中国の一般市民の生活に影を落としている景気の急減速。こちらは債務過剰、民営企業の不振がそもそもの要因だった。米中問題と景気後退。この2つが具体的な重大リスクだろう。

    中国内の「改革派」経済学者も、憂国の雰囲気を漂わせた警鐘を鳴らし始めた。それはリスク警戒を呼びかけた習演説の趣旨に合致する。ただ細部を見ると官僚らのメンツを潰す微妙な内容も多い。

    例えば習演説と同じ日、6.6%と発表された2018年実質経済成長率への異論である。中国人民大学教授の向松祚(こう・しょうそ)は昨年12月の講演で、内部調査では1.67%成長にとどまるとの見通しがあると明言した。これが真実なら全ての前提が崩れる。

    年明けに明らかになった「水増し」が難しい経済統計では、昨年末から一部製造業の中国生産が3割落ち込むなど低成長を裏付けるデータも目立つ。

  • >>417

    ■「灰色のサイ」は不動産市場のリスク

    金融系国際会議の常連である向松祚の率直な物言いは物議を醸したが、その後も意気は衰えない。今年1月20日、上海での経済フォーラムでは、18年に突如現れた私有制廃止論などの雑音に脅える民営企業が自信を喪失し、米中貿易戦争がもたらす甚大な影響も完全に見誤ったと学者やメディア人の具体名を挙げて批判した。成長率を巡る政府公式見解と実態の解離も再びにおわせている。

    中国では「経済の真実」を巡る情報統制が強まりつつある。だが、面白いことに、政府の手法に疑問を呈する講演の動画は、中国内のインターネット上に問題なくアップされ、しばらく放置される。そして中国内と世界に行き渡り、大きな話題となった後、中国内で削除されるのだ。

    現実から目をそらすべきではない――。そう主張する共産党内「改革派」や長老らから一定の支持があると見てよい。中国の経済メディア内にも「習近平指導部は統計の『水増し』をただす決意を示してきた。真実の一面を示す勇敢な発言は長期的に中国のためになる」と支援する向きも多い。

    中国政府が打ち出したインフラ投資の追加など従来型の景気対策の規模は大きい。これが効果を上げ、消費も力強さを回復すれば、建国70年の記念式典がある19年後半には景気が持ち直す可能性はある。だが、読めない米大統領、トランプの対中姿勢以外にも別の大きなリスクが存在する。

    ちなみに向松祚が年初講演で声を強めたのは、習近平演説と同じ「灰色のサイ」。時系列で言えば向松祚の方が1日早く、習演説を先取りしていた。しかも習と違い具体的だ。19年の灰色のサイの一つは、異常に高騰した中国不動産市場の崩壊リスクだという。

  • >>417

    ■最高指導部一丸になっての「闘争」

    今、中国人が持つ富の8割は不動産で、その価値は米欧日など世界の先進国の1年分の国内総生産(GDP)総計に匹敵する。マネーゲームの異常さに皆、気付いているのに有効な手を打てない。ある時、砂漠に現れた蜃気楼(しんきろう)にすぎないと分かり、全ての資産価値が急落するという。

    まさに1990年代、日本で起きたバブル崩壊である。中国政府は長い不況を招いた日本の失敗例を研究し尽くし、教訓としているとはいえ、なお警鐘がやまない。

    習近平が演説した「緊急会議」に参加したメンバーをざっと眺めると、開催が4カ月近く遅れている共産党中央委員会第4回全体会議(4中全会)があれば、出席するはずの面々がかなり顔をそろえていた。示された方針は、重大なリスク回避に偏っている。

    「本来、示すべき未来への大方針と具体策が見えない」「社会不安の防止を最優先せざるをえないほど苦しい」。こんな声が景気落ち込みを感じ始めた中国各地からあがる。ファーウェイ起訴もあって、末尾「9」の年の滑り出しは巨大な変化を予感させる。習近平が繰り返した指導部一丸となっての闘争は、いないはずだった「黒い白鳥」へのおびえを象徴している。