iDeCoと小規模企業共済はどのような制度?
はじめに、iDeCoと小規模企業共済がそれぞれどのような制度なのかを解説します。加入の申込みをする前に、各制度の特徴を知っておきましょう。
iDeCoは公的年金に上乗せできる私的年金制度

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iDeCoは、国民年金・厚生年金の公的年金に上乗せして給付を受けられる私的年金制度のひとつです。掛金は全額所得控除され、運用益も非課税で受取れます。最終的な資産は、60歳以降に一時金や年金のかたちで受取りが可能です。
iDeCoの加入者数は、2024年8月末時点で約342.3万人。当月の新規加入者数も約3万人と、幅広く利用されている制度といえるでしょう。
参考:iDeCo公式サイト「加入者数等について」(外部サイト)
小規模企業共済は任意加入の退職金制度

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小規模企業共済は、自営業者(個人事業主)や小規模企業の経営者・役員が、退職・廃業時のために積み立てる任意加入の退職金制度です。iDeCoと同様に掛金は全額所得控除の対象で、解約時に掛金と運用益を受取れます。
小規模企業共済の加入者は2023年3月末時点で約162万人。節税効果だけでなく、貸付制度を利用できるメリットなどもあるので、多くの自営業者や経営者が活用しています。
※参考:独立行政法人 中小企業基盤整備機構「現況」(外部サイト)
iDeCoと小規模企業共済の違いとは? 6項目を比較
次に、iDeCoと小規模企業共済の違いを詳しく解説します。どちらを選択するか、併用するかを判断する際の重要なポイントなので、ぜひ覚えておきましょう。
加入対象|原則誰でも加入できるのはiDeCo

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iDeCoは原則誰でも加入できますが、小規模企業共済は加入できる人が限定されています。
iDeCoは20歳以上65歳未満の国民年金加入者であれば、基本的に誰でも加入可能です。ただし、自営業者などの第1号被保険者の場合、国民年金を免除・猶予している人や農業年金の被保険者などは加入できません。
小規模企業共済に加入できるのは、中小企業や小規模企業の経営者・役員、自営業者(個人事業主)に限られています。会社の業態によって加入資格の有無が細かく分かれているので、詳しくは小規模企業共済の公式サイト(外部サイト)を確認してみてください。
掛金上限額|小規模企業共済のほうが自由度は高い

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iDeCoと小規模企業共済では、毎月の掛金上限額が異なります。iDeCoより小規模企業共済のほうが掛金を幅広く自由に設定できるほか、支払い方法も豊富です。
iDeCoの掛金上限額は、公的年金の被保険者種別や勤務先の企業年金制度などによって変動します。最も多く拠出できるのは自営業者などの第1号被保険者で月額最大68,000円。会社員の上限額は、勤務先の年金制度によって12,000円、20,000円、23,000円のいずれかに分けられます(※)。
※2024年12月以降は、会社員の上限額が20,000円または23,000円に変更されます。
iDeCoの掛金は5,000円から、1,000円単位で設定が可能です。掛金の支払い方法には月払いと年払いの2種類があります。
小規模企業共済の場合、加入者によって掛金上限額が変わることはありません。1,000円から70,000円までの範囲であれば、500円単位で掛金を設定できます。
払込方法は月払い、半年払い、年払いの3つ。翌年分の掛金を年払いで前納すると、掛金の0.09%を返還してもらえる制度もあります。
手数料|コスト負担はiDeCoのほうが多い

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iDeCoでは運用手数料がかかりますが、小規模企業共済で支払うのは掛金のみです。
iDeCoでは、加入時や企業型確定拠出年金からの移換時に2,829円、掛金の納付ごとに105円、口座を保有しているだけで毎月66円を支払わなければなりません。金融機関によっては、運営管理手数料が別途必要です。給付金を受取る際にも、1回の振込みごとに給付事務手数料440円が差し引かれます。
小規模企業共済では、加入してから資産を受取るまでに掛金以外の支出は発生しません。コスト面を比較すると、iDeCoよりも小規模企業共済のほうが負担を抑えやすい制度だといえます。
給付の確実性|iDeCoは元本割れや手数料負けに注意が必要

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将来受取れるお金の確実性は、小規模企業共済のほうが高いといえるでしょう。
iDeCoで運用できる商品は、保険や定期預金に代表される元本確保型と投資信託の2種類です。投資信託を運用する場合、大きなリターンを期待できますが、運用成績次第では元本割れや手数料負けが生じます。
損失のリスクを抑えるには、長期投資や分散投資が有効です。金融商品の価値は一時的に下落しても再上昇することがほとんどなので、長期運用をしていれば短期的な価格の暴落などによる損失を防げます。値動きの異なる商品に資産を分散していれば、いずれか1つの価格が下がっても、ほかの投資先で損失をカバーできるでしょう。
小規模企業共済では6カ月以上掛金を納めると、掛金の合計額と同額を受取れます。36カ月以上納付すれば、付加共済金が上乗せされることも覚えておきましょう。掛金の納付が6カ月未満の場合は、拠出した掛金がすべて掛け捨てになるので注意してください。
途中解約|iDeCoは原則不可、小規模企業共済は可能

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iDeCoでは基本的に途中解約はできません。一方、小規模企業共済では途中解約が可能で、解約手当金を受取れます。
iDeCoでは、原則60歳になるまで運用資産を引き出せません。ただし、加入者の死亡時や、一定以上の障害状態になった場合には、60歳前でも死亡一時金や障害給付金を受取れます。
小規模企業共済は途中解約が可能です。納付月数が12カ月未満の解約手当金は0円ですが、1年以上納付していれば、掛金合計額の80〜120%相当額を受取れます。納付月数240カ月(20年)未満での解約は、受取額が掛金の合計額以下になるので注意しましょう。
貸付制度|iDeCoはなし、小規模企業共済は7種類から選べる

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小規模企業共済では、事業資金の貸付制度を利用できます。iDeCoには貸付制度がないので、小規模企業共済を利用する大きなメリットといえるでしょう。貸付限度額は掛金の納付月数に応じて決まり、掛金の7〜9割まで借入れが可能です。
小規模企業共済の貸付制度は7種類あります。もしものときにも迅速に事業資金を借入れできる一般貸付制度、資金繰りが困難なときに低金利で借入れができる緊急経営安定貸付け、病気や災害時などに借入れができる傷病災害時貸付けなど、状況に応じた制度が用意されているのもポイントです。
貸付手続きは登録した金融機関、または最寄りの商工組合中央金庫で行います。利率は2024年9月時点で、一般貸付が年利1.5%、そのほかの貸付けが0.9%です。貸付制度ごとに貸付条件が異なるため、詳細は小規模企業共済の公式サイト(外部サイト)で確認してください。
iDeCoと小規模企業共済の共通点は?
iDeCoと小規模企業共済は、どちらも長期加入が前提の制度であり、掛金が所得控除の対象になる共通点があります。効率的に資産を増やしていくための基本となる知識なので、ぜひ覚えておきましょう。
いずれも掛金を長期間納めることが前提

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iDeCoと小規模企業共済は、老後や退職後の備えを目的にした制度なので、いずれも掛金を長期間納めることが前提とされています。掛金を納める期間が長いほど、より大きなリターンを受取れる可能性があることを理解しておきましょう。
将来受取れる金額は、iDeCo公式サイト(外部サイト)や小規模企業共済公式サイト(外部サイト)でシミュレーションできます。想定される掛金や運用期間などをもとに、一度試してみるとよいでしょう。
所得控除によって節税効果が期待できる

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iDeCoと小規模企業共済は、いずれも掛金が全額所得控除の対象です。拠出した分だけ課税所得を減らせるので、所得税と住民税の軽減につながります。
例えば、年収500万円の自営業者がiDeCoに月68,000円を拠出した場合、年間の所得税軽減額は16万6,600円、住民税軽減額は81,600円です。自営業者がiDeCoの掛金上限額を1年間拠出すれば、合計24万8,200円の節税効果があります。
中小企業経営者の場合、iDeCoの掛金上限額は23,000円にとどまるので、節税メリットを感じづらい場合もあるでしょう。小規模企業共済であれば誰でも最大70,000円まで拠出できるので、節税効果をより高められます。
受取り方の選択肢がいくつかある

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iDeCoと小規模企業共済は、資金の受取り方を複数から選べます。いずれも運用の目的やライフプランに応じて柔軟に利用できるでしょう。
iDeCoで積み立てたお金は、一時金として75歳になるまでに一括で受取るか、年金(5年以上20年以下の期間)として受取るかを選択できます。金融機関によっては一部を一時金として受取り、残りを年金で受取ることも可能です。
小規模企業共済の場合は、一括での受取り、分割での受取り、一括受取りと分割受取りの併用から選べます。分割もしくは一括受取りと分割受取りの併用には一定の条件が定められているので、詳しく知りたい人は小規模企業共済公式サイト(外部サイト)をチェックしてみましょう。
iDeCoと小規模企業共済はどちらが得?
老後資金をお得に積み立てられるiDeCoと小規模企業共済。ここからは、どちらを優先して加入するべきなのか解説します。選択に迷っている人は、ぜひ参考にしてみてください。
緊急事態に備えられる小規模企業共済を優先しよう

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iDeCoと小規模企業共済のどちらに加入するかで迷っている場合、まずは小規模企業共済を優先することをおすすめします。
小規模企業共済を利用する大きなメリットは、貸付制度を利用できることです。一般貸付は審査不要で即日融資も可能なので、急に事業資金が必要になったときにも迅速に対応できるでしょう。
また、iDeCoでは60歳まで積立金の引き出しが認められていませんが、小規模企業共済なら60歳未満でも、廃業時に共済金を受取れます。小規模企業共済には自営業者や中小企業経営者向けの魅力的な制度が備わっているので、少額からでも加入しておくとよいでしょう。
余裕があればiDeCoと小規模企業共済の併用も視野に

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拠出できる資金に余裕がある場合は、iDeCoと小規模企業共済の併用も検討してみてください。
iDeCoと小規模企業共済を併用すれば、高い節税効果が期待できるでしょう。それぞれ掛金が全額所得控除の対象となりますが、拠出できる金額には上限があります。iDeCoの場合、自営業者であれば68,000円、中小企業経営者であれば23,000円が上限です。一律で70,000円まで拠出できる小規模企業共済を併用すれば、所得控除額を大幅に増やせます。
iDeCoでは運用成績次第で、小規模企業共済よりも大きなリターンを見込めるでしょう。小規模企業共済の運用対象は利率の低い債券が中心ですが、iDeCoでは高い利回りを狙える株式中心の商品も選べます。
ただし、iDeCoも小規模企業共済も長期的な運用が基本の制度です。無理のない範囲で始めてみることをおすすめします。
NISAや国民年金基金での資産形成も選択肢に入れよう

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自営業者(個人事業主)や中小企業の経営者として働いているなら、NISAや国民年金基金での資産形成もおすすめです。
NISAとは、投資で得られた利益を非課税で受取れる制度です。非課税期間は無期限で、つみたて投資枠・成長投資枠を併用すれば年間で最大360万円投資できます。
国民年金基金は、退職金や企業年金がない自営業者(個人事業主)などを対象とした制度です。国民年金に上乗せして老後資金を積み立てられるため、老後に備えてしっかりと資産形成したい人に適しています。
NISA、国民年金基金、iDeCo、小規模企業共済は、それぞれ任意の組み合わせで併用することも可能です。ただし、国民年金基金とiDeCoを併用する場合、掛金は合計で月額68,000円までなので注意しましょう。
NISAや国民年金基金について詳しく知りたい人は、以下のページもチェックしてみてください。それぞれの特徴やメリット、運用の際に注意したほうがいいポイントなども解説しています。
iDeCoへの加入を検討する場合は証券会社選びが重要

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証券会社によって、手数料や商品ラインアップは異なります。できるだけ手数料が安く、運用したい商品を取扱っている証券会社を選択しましょう。
自分に合ったサービスを提供しているかどうかも大切な判断基準です。とくに初心者の場合は、コールセンターやチャット相談などのサポート体制にも注目しておくとよいでしょう。
証券会社選びで迷ったときは、以下のページもチェックしてみてください。各証券会社のサービス内容をわかりやすくまとめているので、iDeCo口座の開設先を検討する際に役立てられるはずです。