iDeCoの移換とはどんな手続きのこと?
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移換とは、転職時や退職時に、積み立てた資産をほかの年金制度へ持ち運ぶことを指します。資産の持ち運びができる性質は、ポータビリティと呼ばれるのが一般的です。年金制度は原則60歳まで資産形成を続けなければならないので、転職・退職・復職などが生じた場合でも、個人の資産を持ち運べる仕組みが整えられています。
企業型確定拠出年金・確定給付企業年金などの企業年金やiDeCoは相互に移換できることを覚えておきましょう。ただし、移換できる範囲や必要な条件はそれぞれ異なる点には注意が必要です。
運営管理機関の変更や乗り換えを移換と表現する場合もあります。運営管理機関とは、厚生労働省・金融庁の承認を受けて確定拠出年金を運営する銀行・証券・生損保などの金融機関のことです。運用管理機関を変更する方法はページの後半で詳しく紹介するので、気になる人はチェックしてみてください。
ケース別|確定拠出年金の移換手続き
転職・退職・復職にあわせて積み立てた個人資産を移換するには手続きが必要です。ここからは、ケース別に具体的な手続き方法を解説します。
企業型確定拠出年金の加入者が資産を移換するケース
企業型確定拠出年金の加入者が資産を移換する場合、転職先の企業にどのような制度があるか、自営業者や専業主婦(夫)になるかどうかなどで手続き方法は変わります。自分に当てはまるケースを確認してみてください。
転職先に企業型確定拠出年金がある場合
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転職先に企業型確定拠出年金がある場合、転職前の会社で積み立てた資産の移換手続きが必要です。転職先の会社に個人別管理資産移換依頼書を提出しましょう。そのほかの具体的な手続き方法は会社ごとに異なるため、詳細は転職先の人事・労務に相談してみてください。
前の会社で積み立てた資産は、iDeCoに移換することも認められています。iDeCoに移換する場合は、転職先に「事業所登録申請書兼第2号加入者に係る事業主の証明書」を記入してもらい、金融機関に提出しなければなりません。厚生年金の適用事業所に転職する場合は、加入者登録事業所変更届の提出も必要です。
新たにiDeCoに加入して掛金を支払う場合は、個人型年金加入申出書も金融機関に提出しましょう。会社員・公務員などの厚生年金加入者は、申込みにあたって事業主の証明書を記入してもらう必要があります。
転職先に企業型確定拠出年金がない場合
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企業型確定拠出年金に加入していた人が、企業型確定拠出年金のない企業に転職したときは、金融機関に個人別管理資産移換依頼書を提出することで、積み立てた資産をiDeCoに移せます。金融機関は、転職前に加入していた企業型確定拠出年金と同じところでも、自分で選んだ別の金融機関でも問題ありません。
転職先に企業型確定拠出年金がない場合は、iDeCoに個人資産を移すだけでなく、加入して掛金を支払いながら運用することをおすすめします。新たにiDeCoに加入する場合は、個人型年金加入申出書の提出が必要です。勤務先に企業型確定拠出年金や確定給付企業年金がない場合、iDeCoの掛金上限額は月額23,000円と少し高めなことも覚えておきましょう。
転職先に確定給付企業年金がある場合
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企業型確定拠出年金で積み立てていた資産は、転職先の確定給付企業年金に移換できるケースがあります。移換できるのは、転職先の規約に企業型確定拠出年金からの移換を受け入れられる旨の規約がある場合に限られるので注意が必要です。移換の可否は、転職先の人事・労務に確認しておくとよいでしょう。
確定給付企業年金への移換が認められない場合、資産はiDeCoに移換する必要があります。移換するだけにとどめるか、iDeCoに加入して掛金を拠出しながら運用するかを選択しましょう。確定給付企業年金の加入者が掛金を拠出して運用する場合、上限額は12,000円です。
自営業者や専業主婦(夫)になる場合
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企業型確定拠出年金に加入していた人が、自営業者・専業主婦(夫)になる場合、個人別管理資産移換依頼書を金融機関に提出すれば資産をiDeCoに移換できます。iDeCoに加入して掛金を支払いながらの運用も可能です。加入を希望する場合は、個人型年金加入申出書を国民年金基金連合会に提出しましょう。
企業型確定拠出年金の加入者で、同時にiDeCoにも加入していた人が、自営業者や専業主婦(夫)になる場合、被保険者種別を変更するための手続きが必要です。会社員が国民年金第1号被保険者の自営業者になる場合は、加入者被保険者種別変更届の第1号被保険者用を金融機関に提出します。第3号被保険者の専業主婦(夫)になる場合は、第3号被保険者用を金融機関に提出してください。
iDeCoの掛金上限額は、自営業者などなら月68,000円、専業主婦(夫)なら23,000円です。
iDeCo加入者が資産を移換するケース
次はiDeCoに加入している人が、個人資産を移換するケースです。移換先によって手続きが変わるため、自身の状況と照らし合わせながら読み進めてみてください。
転職先に企業型確定拠出年金がある場合
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転職先に企業型確定拠出年金がある場合は、iDeCoの資産を移換させる、iDeCoと併用する、iDeCoのみを継続するの3種類から選択できます。
資産を移換させる場合、iDeCoの加入資格は失われるため、加入者資格喪失届に喪失理由と喪失年月日を証明する書類を添付して、金融機関に提出する必要があります。喪失理由は「09:確定給付企業年金制度の加入者となったため」を選んでください。細かな手続きは企業によって異なるため、転職先に問い合わせてみましょう。
iDeCoと企業型確定拠出年金を併用する場合、被保険者種別または登録事業所の変更手続きが必要です。第1号・第3号・第4号被保険者は第2号被保険者に変わるので、 「加入者被保険者種別変更届(第2号被保険者用)」と、「事業所登録申請書兼第2号加入者に係る事業主の証明書」を金融機関に提出しましょう。もともと第2号被保険者だった場合は、加入登録事業所変更届に事業主の証明書を添付して提出します。
企業型確定拠出年金に加入しないでiDeCoのみを継続する場合も、被保険者種別または登録事業所の変更手続きが必要です。
転職先に企業型確定拠出年金がない場合
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転職先に企業型確定拠出年金がない場合は、iDeCoを引き続き利用できます。被保険者種別または登録事業所の変更の手続きを行いましょう。
iDeCo加入者で第1号・第3号・第4号被保険者だった人が、厚生年金保険を適用している企業に転職する場合は、第2号被保険者に変わるため変更手続きが必要です。「加入者被保険者種別変更届(第2号被保険者用)」に「事業所登録申請書兼第2号加入者に係る事業主の証明書」を添付して、金融機関に提出してください。
第2号被保険者が厚生年金保険の適用企業に転職した場合は、加入者登録事業所変更届に、転職先に記入してもらった事業主の証明書を添付して提出します。
転職先に確定給付企業年金がある場合
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iDeCo加入者の転職先に確定給付企業年金がある場合は、会社の規約で確定拠出年金の個人資産を受け入れできると定められている場合のみ、運用していた個人資産を移換できます。移換の可否や手続きは、会社の人事・労務などの担当部署に確認してください。
自営業者や専業主婦(夫)になる場合
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iDeCoに加入している人が、自営業者や専業主婦(夫)になる場合、個人資産の移換手続きは必要ありません。ただし、拠出・運用を引き続き行うには、被保険者種別を変更する手続きが必要です。
自営業者になる場合は第1号被保険者用の加入者被保険者種別変更届、専業主婦(夫)になる場合は、第3号被保険者用被保険者種別変更届を金融機関に提出しましょう。
企業型確定拠出年金の移換では「自動移換」に注意
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企業型確定拠出年金を移換する場合、加入者資格が喪失された翌月から6カ月以内に移換手続きをしなければ、自動移換されるため注意してください。
自動移換とは、企業型確定拠出年金で積み立てた個人資産が強制的に国民年金基金連合会に移されること。現金のかたちで管理されるため、運用ができなくなる一方、月額52円・年間624円の管理手数料だけが現金資産から差し引かれ続けます。
自動移換中は老齢給付金を受け取るための加入者期間に算入されないため、受給開始の時期が遅くなる可能性も。企業型確定拠出年金の加入資格を失った場合は、できるだけ早めに手続きを行いましょう。
iDeCoは加入途中で金融機関を変更できる?
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iDeCoは加入者自身の責任で資産を運用していく制度です。加入途中で金融機関を変更することも認められています。期待していた運用利回りと異なっていたり、年齢や収入が変化したりした場合は、金融機関の見直し・変更も検討してみましょう。
金融機関変更の手続きは、変更先の金融機関で行います。加入者等運営管理機関変更届を取り寄せて提出しましょう。掛金の配分や資産の配分を事前に決めておくとスムーズです。一般的に、書類を返送して2〜3カ月後に手続きが完了します。手続きが終われば、移換完了通知書・口座開設のお知らせ・IDやパスワードなどが通知されますので、新しい金融機関でiDeCoの運用を始めてください。
iDeCoの金融機関を変更するメリット
iDeCoを運用中に金融機関を乗り換える際は、メリット・デメリットをしっかり理解しておくことが重要です。まずは、金融機関を変更するメリットを紹介するので参考にしてみてください。
口座管理手数料の負担軽減につながる
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金融機関を変更すれば、口座管理手数料の負担軽減につながることを覚えておきましょう。口座管理手数料とは、iDeCo口座を維持・管理するために支払う手数料のことで、事務手数料・資産管理手数料・運営管理手数料などがあります。なかでも、運営管理手数料0〜450円程度の幅があるので、できるだけ無料の金融機関を選ぶことが重要です。
投資信託を購入する際は、信託報酬にも注意する必要があります。信託報酬とは、プロに資産運用を代行してもらうための手数料のこと。投資信託の保有期間中、口座から差し引かれ続けます。長期運用が基本のiDeCoでは、信託報酬が数%違うだけで最終的な総資産額が大きく変動するので、信託報酬の低い商品がある金融機関への変更も定期的に検討しましょう。
運営管理手数料や信託報酬が抑えられた金融機関に変更すると、毎月の支払い負担を軽減できる可能性があります。手数料や信託報酬が低い金融機関を知りたい人は、以下のページもチェックしてみてください。
運用できる商品の選択肢が広がる場合も
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運用商品のラインアップが多い金融機関に変更すれば、より多くの選択肢から投資先を選べるようになります。資産運用を長く続けていれば、さまざまな商品に興味が出てくることも少なくありません。現在の取りそろえに不満がある場合は、金融機関の変更を検討してみるとよいでしょう。
より充実したサポートを受けられる
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金融機関を変更すれば、より充実したサポート体制でiDeCoの運用ができる可能性もあります。現在の金融機関に不満を感じているなら、サポート体制に定評のある金融機関を探すとよいでしょう。
素早い対応を求めるなら、気軽に電話・メール・チャットボットなどで気軽に問い合わせできる金融機関が向いています。投資の基礎知識を学びたいなら、学習コンテンツの充実度をチェックしてみてください。より丁寧な対応を求めるなら、対面での相談に応じてくれる金融機関がおすすめです。
iDeCoを始めたばかりの頃は、口座開設後に疑問点が生じることも珍しくありません。特に資産運用の初心者にとって大切なのは、自分にとって必要なサポートの提供がある金融機関を選ぶことです。
金融機関の変更にともなうデメリット
iDeCoの個人資産をほかの金融機関に移す際には、コスト面や運用面でのデメリットが生じる場合もあります。以下で紹介するデメリットを十分に理解したうえで、金融機関の変更を検討してください。
金融機関によっては数千円の事務手数料が発生
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金融機関によっては、変更時に数千円の事務手数料がかかることもあるため注意してください。変更時の事務手数料の種類は主に2つあり、利用をやめる際に変更前の金融機関に支払うものと、利用を始める際に変更後の金融機関に支払うものがあります。
現在は多くの金融機関で変更にかかる手数料を無料としていますが、4,000円程度の負担を求められるケースもあるため、事前の確認が必要です。公式サイトやコールセンターなどで問い合わせてみましょう。
ただし、移換時手数料を払っても運用管理手数料や信託報酬などのコスト面でメリットがある場合や、自分に合ったサポート体制がある場合は、目先の手数料にこだわりすぎるのもおすすめしません。金融機関の変更は手間や時間がかかることも前提に、長期的視点にたって判断しましょう。
手続きのタイミングによっては資産が目減りする可能性も
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iDeCoの金融機関を変更するタイミングによっては、資産が目減りする可能性があることにも留意しておきましょう。
iDeCoの金融機関変更手続きでは、それまで保有していた資産を移換時に売却したうえで現金化して、新しい金融機関に移して再購入する必要があります。一般的に手続きには2~3カ月程度かかるので、売却時に相場が下落していたり、再購入時に相場が高騰していたりする可能性も否定できません。
手続きが行われている期間は、掛金の拠出や運用商品の売買もできないので、貴重な投資の機会が失われることも理解しておきましょう。
運用利回りの情報を引き継げない
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iDeCoの金融商品を変更すると、運用利回りの情報がリセットされてしまう点にも注意が必要です。一般的にiDeCoを扱う金融機関では、加入者の積立履歴をふまえた年率換算の運用利回りを計算してくれます。
年率換算の運用利回りは、積立投資を行う際の参考になる重要な情報です。過去の情報を参照できなくなることは、移換のデメリットのひとつといえるでしょう。
iDeCoの金融機関を選ぶ際のポイント
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iDeCoの金融機関変更を検討する際は、手数料・運用商品のラインアップ・利便性を考慮しましょう。
長年運用するiDeCoでは少しの手数料の差でも運用成績に大きな影響を与えます。なるべく運用管理手数料が無料で、信託報酬が安い投資信託を取り扱っている金融機関を選んでください。
自身の責任で資産を運用するiDeCoでは、利用者がリスク許容度に合わせて商品を選ぶことも大切です。希望する商品を運用できるように、商品の品ぞろえはしっかりと確認しておきましょう。使い勝手のよさやアフターフォローなどの利便性も、金融機関選びのポイントです。
iDeCoを扱っている金融機関は多数存在するため、どこで口座を解説するべきか迷ったときは、以下のページもチェックしてみてください。各証券会社のサービス内容をわかりやすくまとめているので、参考になるはずです。